臨床でも研究でも"客観性"を追い求める
1992年広島大学医学部卒業。同附属病院精神神経科助手、米国立衛生研究所・薬物依存研究部門客員研究員、国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター精神科科長などを経て、2018年から現職。
熊本大学大学院神経精神医学分野は伝統的に生物学的精神医学を追求してきた教室で、教育や研究にもその精神が反映される。2018年7月に就任した竹林実教授に、就任から半年ほどの取り組みやこれからの目標などについて、話を聞いた。
―神経精神医学分野の臨床や研究の現状について教えてください。
当科では、主に三つの分野の診療をしています。その一つは認知症です。前任の教授が認知症を専門としていたため、その流れで認知症の患者さんが多くなっているのではないかと思います。二つ目は老年期うつ病などの気分障害、三つ目は児童・思春期の発達障害などです。
精神疾患は他の身体疾患を併発していることも多く、鑑別が難しいケースもあります。正確な診断をつけるために他の医療機関からの相談を受けることもあります。
独自の研究としては、荒尾市民1500人を対象としたコホート研究を進めています。これは主に認知症やうつ病といった病気の発症メカニズムを知るための研究で、5年ごとに追跡調査をしていく予定です。
―研修プログラムはどんなものですか。
当科の教育プログラムでは、基本的に「屋根瓦方式」を採用。さまざまな症例に触れられるよう、プログラムを組んでいます。
初期の段階では軽症から重症まで、あらゆる患者さんを診ることが大切です。そうした幅広い経験や視野がないと、複雑な病状を呈する患者さんを正確に診断し、治療することは困難だからです。
「自立性」「客観性」を育むトレーニングもしています「。自立性」がある医師とは、自分で判断し課題に取り組める医師のこと。「客観性」がある医師とは「科学性を持った」とも言い替えることができるかもしれません。客観的データに基づいた診療が大切だと考えています。
ワイドかつ「客観性」ある思考を持ちながら、高度な専門性を持ったエキスパートを育てる、これが私の目標とするところです。
―熊本大学病院が基幹となっている「熊本県認知症疾患医療センター」とは。
「熊本県認知症疾患医療センター」は、認知症の早期発見や治療体制の充実などを図るため、当大学病院を中心に県内12カ所の医療機関に設置されています。県の要請のもと、全国に先駆けた「熊本モデル」をつくろうと2009年、8カ所でスタートし、順次広げてきました。
認知症専門医とその他の医療従事者が年に6回、研修会を開催。熊本県全体の認知症に対するスキルの底上げを後押ししています。高齢化に伴い認知症患者はかなり増えています。認知症を診ることができる医療者のニーズはさらに大きくなると予想されます。医療と介護の連携強化も含めて、センターの役割もさらに拡大するでしょう。
―今後の目標は。
がんにおける腫瘍マーカーのように、誰が見ても理解できるような診断法や診断マーカーなどの開発は精神科分野の大きなテーマです。熊本大学には神経系の基礎研究をしている講座がたくさんあります。そうした講座の方々とも協力しながら、研究を進めていければと考えています。
その一環として、例えば脳画像の解析技術開発にも携われたらいいですね。かつては脳はあまり詳しく見ることができませんでした。しかし、最近は分子レベルまでイメージングできる技術も開発されています。新たな技術を応用し、精神疾患の診断に役立つ画像解析ができるようにしたいと思っています。
薬に関しても、現在使用している薬は効果が出る人がいる一方で、治りにくかったり再発しやすかったりする人もいます。新たな視点からの治療薬の開発にも力を尽くしていきたいと思います。
熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学分野
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
https://www.kumamoto-neuropsy.jp/