2月9日、手塚治虫が亡くなってから30年が経つ。「最後の作品」と言われる未完の「ネオ・ファウスト」は実家の本棚に眠っていて、たぶん数年に一度くらい、読み返している。そして、やっぱり続きが気になってしまう。
「ブラック・ジャック」について思い出すとき、代名詞である「天才的なオペ」の場面よりも、「ブラック・ジャック=間黒男(はざまくろお)」が悩んだり、怒ったり、ピノコがつくった黒こげの朝食を必死の形相でのどに押し込んだり、手術を終えた後にソファで「ガーガー」といびきをかいて眠ったり。人間くさいひとコマばかりが記憶に残っている。
医学的な描写がどの程度正確なのか、残念ながらわからない。架空の病気も登場するし、怪談やファンタジー風味のエピソードもある。
どんな話であってもブラック・ジャックが「そこにいる」かのような強烈な存在感が薄れることはなく、手塚作品に特有の、絵のうまさを超えたリアルに引きつけられる。医師たちはどんな視点でこの作品に接しているのだろうか。
ブラック・ジャックがけっこうモテる、という事実はひそかにうらやましい。好意を抱く女性がときどき出現するし、逆にブラック・ジャックからアプローチすることもある。恋愛経験の豊富さゆえか、婚活サービスのイメージキャラクターにも起用された(お相手役はまさかのドロンジョさま!)。
いつの日か、ピノコと幸せに。ファンの共通の願いだろう。
「ピノコ生きてる」のラスト、夢の中で八頭身になったピノコはブラック・ジャックに愛を告げる。私の「泣けるBJ」ベスト5に入るワンシーンだ。(瀬川)