医療と法律問題61 〜副神経損傷〜

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九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

 しばらく間があいてしまいましたが、引き続き、手術ミスのケースを続けます。

 Aさんは30代後半の男性です。高校で、国語、書道、体育の教科を担当し、吹奏楽部の部長も務めていました。首の右側にできた瘤が気になったAさんは、B病院皮膚科を受診し、良性腫瘍だと思われるが、首にはいろいろな神経が通っているので大きくなる前に切除した方がいいだろうといわれ、これについて切除術を受けることになりました。

 当初30分程度と説明されていた手術は、実際には90分程度かかりました。執刀医に、長くかかった理由を尋ねると、「脂肪腫が深く入り込んでいたから」とのことでした。摘出した腫瘤を見せてほしいと要望すると、「もう検査に出したから」と断られました。

 術後、Aさんは右腕を上げることができませんでした。当初は麻酔がまだ効いているのだろうと思っていましたが、麻酔が切れる頃になっても右腕は上がらず、むしろ右耳から後頭部にかけて痛みを感じるようになりました。

 AさんはB病院皮膚科に通院し、執刀医にその症状を訴えました。しかし、執刀医は、右腕が上がらない理由を解明しようとはせず、「もう少し様子をみてほしい」というばかりでした。抜糸の際にもAさんはその症状を訴えましたが、B医師は、経過観察のための受診を指示することもありませんでした。Aさんとしては、B医師がそういうのだからいずれ治るのだろうと我慢するしかありませんでした。

 約半年が経過しました。Aさんの右腕はあいかわらず上がりませでした。ひょっとしたら、このまま一生上がらないのではないかと不安を募らせたAさんは、再びB病院皮膚科を受診しました。皮膚科でAさんを診察したのは、執刀医とは別の皮膚科医でした。その皮膚科医は、Aさんに対して神経内科受診を勧め、筋電図検査の結果、右副神経がまったく機能していないことが判明しました。

 右頸部腫瘤摘出術から約8カ月後、別の総合病院の整形外科で、右副神経修復手術がおこなわれました。術中所見で、右副神経は、完全に切断されていたことが分かりました。それだけではなく、切断された右副神経の断端には、ナイロンの糸が残っていました。おそらく、右頸部腫瘤摘出術の執刀医は、術中に右副神経を切断したことに気づいており、術中、その修復を試みていたようです。

 副神経を切断した場合、3〜4カ月の間に修復すればまだ機能回復が望めますが、切断後8カ月もたつと機能回復の可能性は低いようです。Aさんの場合も、副神経まひは結局、回復しませんでした。

 柔道三段のAさんですが、利き腕の右腕が上がらないため実技指導はできなくなり、体育の教科担当は外されました。書道もできなくなり、その担当も外されました。

 本件では、副神経を切断した手技ミスも問題ですが、それを患者に説明せず、後遺症を回避するための再手術の機会を失わせてしまったという点で、極めて悪質な事件だといえます。執刀医は、いったいどんなつもりで、副神経を切断してしまったことを隠して、「もう少し様子をみてほしい」などと言っていたのでしょうか。

 裁判ではB病院は損害を争うだけで、過失に関するこちらの主張には一切反論せず、執刀医の尋問も申請しませんでしたので、その点は謎のままです。

九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1-10-2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
TEL:092-641-2007


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