《学会リポート》第11回日本運動器疼痛学会

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新時代への挑戦─日本人にあった専門性の融合と共有─

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2018年12月1日、2日、滋賀医科大学医学部附属病院の福井聖ペインクリニック科病院教授が会長を務めた「第11回日本運動器疼痛学会」が開かれた。会場となった滋賀県大津市のびわ湖ホール、ピアザ淡海(滋賀県立県民交流センター)などには、2日間でおよそ730人の医師、理学療法士らが集まった。

【会長講演】新時代への挑戦
医療、経済、社会政策としての運動器慢性疼痛対策
福井 聖(滋賀医科大学医学部附属病院/ペインクリニック科病院教授)

 腰や膝といった運動器の痛みが続く「慢性の疼痛(とうつう)」に悩む患者は国内におよそ2300万人いるといわれる。特に長期にわたって複数の医療機関を受診せざるをえない状況にある「痛み難民」は少なくない。その社会的な損失は、日本が直面する大きな課題となっている。

患者の「自己肯定感」を引き出す治療を

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◎この10年の動き

 2007年、滋賀医科大学医学部附属病院は福井聖氏を中心に、国立大学で初となる「ペインクリニック科」を開設した。当時、同氏が目を向けたのは、それまであまり関心が高いとは言えなかった「患者の心理的な側面」だったという。

 心療内科のドクターにレクチャーを受け、他の診療科とも連携して認知行動療法や運動療法を取り入れるなど、心身両面の集学的治療に取り組んできた。

 慢性の痛みに対する治療の現状について「海外と比較すると、日本はいまだ後れをとっているのではないか」と疑問を投げかける。

 2011年、国による「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班の事業として、大学病院を中心に全国に20を超える「痛みセンター」が設置された。また、2018年3月には、同研究班が監修した「慢性疼痛治療ガイドライン」が取りまとめられた。

◎これから必要なことは

 基盤整備は道半ばだ。「センターの数も人材も不足している。必要とする患者にしかるべき治療が行き届いている割合はかなり低いだろう」。

 さらに「薬物療法や運動療法は着実に進歩しているが、心理療法に関する医療者の理解度は十分とは言えない」と福井氏は語る。現状を踏まえ、今後は医療者の研修や市民への啓発活動にもっと力を入れていく方針を掲げる。

 各地の「痛みセンター」を拠点とした痛みの治療の質向上、人材育成の底上げを図るためには「患者の目線に立つことが不可欠。そして行政や経済界などとの連携を深めなければならない」と改めて強調する。

 痛みの治療は「取り除く」だけではない。例えばスイスの医療機関では、痛みとうまく付き合い「人生を楽しく過ごす」ためのサポートを重視した治療を進めている例もある。

 福井氏は「患者の自己肯定感が生まれる治療環境をつくることが大切ではないか」と会場に語りかけた。

【基調講演】これからの疼痛治療
― ALL Japanで未来に向かう―
細川 豊史(洛和会丸太町病院院長)

 日本慢性疼痛学会理事長で、京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室教授を務めた経歴も持つ細川豊史氏。講演は、米国をはじめとする「世界の疼痛治療のいま」を伝え、「その中で日本はどう進むべきか」を示唆する内容となった。

「オピオイド危機」から何を学ぶか

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◎世界が直面する課題

 欧米諸国を中心に「オピオイド鎮痛薬の過剰摂取」による死亡者数の増加に対する危機感が募っている。

 発端は、2000年当時の米国大統領であったビル・クリントンが「痛みが社会を疲弊させる」との考えに基づき、10年がかりの国家的なプロジェクトとして強力に推進した「痛みの研究」だといわれる。

 この試みは世界的な広がりを見せ、痛みのメカニズムに関する研究などで得られた新たな知見は、さまざまなオピオイド鎮痛薬の開発につながった。

 時代は「疼痛の克服」へと向かうように思われたが「安易に処方されたオピオイド鎮痛剤は乱用や依存をまねき、青少年も巻き込むなど混乱が拡大した」と細川氏はいう。

 米国の調査によるとオピオイド鎮痛剤を原因とする死亡者数は年間2万6000人を超え、乱用者は1200万人とも1500万人とも言われた。

 問題の本質はどこにあるのか。「過剰摂取による事故の大部分は処方された患者本人の乱用にある。問題を深刻化させている一因は簡単に家族や友人に渡してしまうことだろう」。

◎教訓を次に生かす

 この「オピオイド危機」を教訓として、慢性疼痛の治療を正しく発展させようとする考えが広がりつつある。米国は本格的な規制に動きだしており、中国では一定規模の医療機関への「疼痛科」の設置に力を入れている。

 日本は何を道しるべとすべきか。細川氏は言う。「日本の慢性疼痛治療の未来に期待している」。

 複雑な痛みの正体を解き明かし、適切な治療に導くのは容易ではない。だからこそ、専門性を結集した集学的治療の重要性を説く。

 「ペインクリニック講座などを開設した医学部、専門の治療に対応できる部門を置いた医療機関が増えてきた。内閣の基本方針には慢性疼痛対策が盛り込まれ、痛み対策の基本法制定を目指す動きもある。医療、介護、福祉が連携してオールジャパンで向き合っていくべき領域だ」


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