「この人になら」と期待される医師に
1989年滋賀医科大学卒業、整形外科入局。日本学術振興会・特別研究員、滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部助教授、同整形外科学講座准教授などを経て、2015年から現職。
滋賀に根差して40年余り。各サブスペシャルティを網羅し、先端医療を牽引する滋賀医科大学整形外科学講座。ヒューマニティーと知識・技量を併せ持つ若手の育成にも力を注ぐ。
―特長や強みは。
歴代教授はリウマチ、脊椎、スポーツ、上肢・肩と、異なる分野が専門で、教室には、長い年月をかけて蓄積された幅広い知識があります。他の分野も育ってきました。例えば、以前は他都市で治療することが多かった骨肉腫も、5年ほど前からは、こちらでしっかり対応できるようになりました。
先代は膝の軟骨再生のパイオニアで、関節鏡を使った低侵襲手術を数多く手がけてこられました。また、私の専門である肩の分野で内視鏡手術が広がったのは2005年から2010年にかけてですが、われわれも着実に成果を上げてきました。こうした流れから、内視鏡を中心とした膝、肩、肘などの低侵襲手術が得意分野と言えます。
内視鏡手術は次世代に必須の技術で、膝に続き、今後は肩でも不可欠です。手術自体は一定のレベルに到達したと思われますので、今後は技術がブレイクスルーするというより、さらに横に広く普及する時代になるでしょう。
―肩の分野に関するトピックなど。
寝たきりにつながる大腿骨や腰椎の骨折はすぐ治療の対象になる一方、肩は積極的な治療がなされない傾向があります。しかし今、欧米では興味深いデータが示されています。「肩周囲を骨折すると、平均寿命が短くなる」というのです。
年齢でデータを補正しても、説明しきれないらしく、腕が上がらない場合などに人工関節を入れることで寿命が延びるのではないか、という研究もあります。今後、興味深いトピックになるでしょう。
―後進を育てるうえで、大切にしたいことは。
整形外科も専門化が進んでいます。実際、肩の内視鏡手術を膝の先生が担うのは難しいのが現状です。しかしそれだと専門外は人任せ、ということになりかねません。大事なのは全体の底上げです。どの専門医にも、他分野の7割方の知識と技量が備わるようにしたいと思っています。
例えばスポーツや内視鏡を専門とする医師が骨肉腫に対応する、これは大変に難しいことです。10代半ばの女子に多い骨肉腫は、血液内科や産婦人科、小児科での治療を経てようやく整形外科の人工関節手術へとつながります。そこをしっかりと理解し、各部門と連携できるよう準備できていることが肝心なのです。治療のチャンスを遅らせることがあってはなりません。
さらに大事なのはメンタリティーだと思います。先端技術になればなるほど知識と技量に依存しがちですが、患者さんが一番欲しているのは、悲しみや苦しみに共感してもらいたい、ということ。この医師は理解してくれる、と思えば、つらい治療にもついていけると思うのです。
医局員に対しても同じです。彼らが窮地に立たされたとき、私自身がどれだけ理解し共感することができるか。常に自分自身を振り返ることを忘れてはならないと思っています。
―整形外科医を目指す若者に願うことを。
フレイルやロコモティブシンドローム、介護や在宅医療―。今後、整形外科やリハビリテーションの領域が抱える役割はますます大きくなります。
理学療法士、作業療法士などのセラピストに対していい意味でリーダーシップを発揮し、協働することが非常に大事です。でないとすぐにクオリティーが落ち、よい医療からはすぐに乖離してしまいます。専門知識とヒューマニティーを備え、安心して頼ってもらえる医師に育ってくれたら、こんなにうれしいことはないですね。
滋賀医科大学 整形外科学講座
大津市瀬田月輪町
TEL:077-548-2111(代表)
https://shiga-orthopaedics.com/