職員をリスペクトし耳を傾けることから始まる
1984年慶應義塾大学医学部卒業、同内科入局。米クリーブランドクリニック留学、日野市立病院副院長などを経て、2017年から現職。
両毛医療圏で佐野市の中核病院の役割を担う佐野厚生総合病院。3年前から続く赤字経営からの脱却を託されたのは、前職で医療機関を立て直した実績をもつ村上円人院長だ。就任から1年半が経ち、少しずつ明るい兆しが見え始めているという。
―これまでの取り組みについて教えてください。
当医療圏の人口推移や医療需要など地域の情勢を分析したところ、当院は急性期医療、高度急性期医療を維持していく必要があると考えました。
そこで、急性期病棟を慢性期病棟に転換する計画や、健診センターの建設などを見直すことにしました。そうして、改めて2025年までの経営プランを作成しました。
作成にあたっては回復期や慢性期病院などを訪問して、地域の現状、意見などを伺いました。市長との面談も初めて実現。まずは5疾病5事業を支える医療体制を構築していかなければならないと考えています。
周産期医療、小児科領域は従来から取り組んでいますので、これまでどおりの体制を維持します。
救急医療や災害医療、へき地医療の分野に関しては強化しなければなりません。救急医療は、現在専門の医師がいない心臓血管外科を除けば、原則として断らない方針を打ち出して確実に実績を挙げています。
最寄りの災害拠点病院である足利赤十字病院と佐野市は、車で30分以上の距離です。佐野市としては市内に災害医療を担う病院の必要性を感じており、「ぜひやってみたい」という当院職員の声も多く、県や市の協力もあってDMAT講習を修了。早くも2チーム目が立ち上がりました。
へき地医療は市との調整がすでに始まっています。佐野市の場合、北部地域がへき地にあたります。診療所が五つあり、連携の方向性や地域に必要な医療を考えるために、職員たちと見学に行きました。
当院の訪問看護の機能が生かせるのではないかと考えています。地域には職員の家族も多く住んでいるので、まずは現場の生の声を聞きたいと思っています。
―病院の改革を進める中で大切にしていることは。
職員一人ひとりをリスペクトすることが一番大切なことかもしれません。そして、目線をしっかりと合わせることが、プラスの力を生むのだと思います。
実際に見たり聞いたりすることも大事です。他の医療機関で先進的な事例を学ぶ研修も実施しました。
これまで皆が「無理」だと考えていた壁を乗り越えていけば、だんだん気持ちが一つになっていくでしょう。医師会との連携協議会も立ち上がり、この半年間で3回の会合を開くことができました。
―今後、どのような点に力を入れていきますか。
2018年の9月から、日曜日に慶應義塾大学病院の眼科の医師による日帰り白内障手術を始めました。
白内障手術を受ける患者さんは高齢者が中心です。同行する家族にとって、仕事を休める日曜日の方が受診しやすいでしょう。多くの症例数を経験できるとあって、慶應義塾大学としても人材の育成につなげることができます。医師不足の当市にとって、課題を解決する一つの連携モデルになるかもしれません。
私の専門である糖尿病の領域で言えば、2018年4月に診療報酬が改定されて以降、糖尿病教育入院などの専門的な亜急性期医療を急性期病棟で実施することが困難になってしまいました。内分泌疾患の精査入院も同様です。
その対応として考えたのが、回復期リハ病棟を地域包括ケア病棟に転換して運用すること。急性期の治療後、地域リハ病棟が受け皿となれば、亜急性期の専門診療も可能となりそうです。また、これには経営効果もあり本年度は増収傾向になっています。
現場を見て、自分で考える。ヒントは足元にあるようです。
佐野厚生農業協同組合連合会 佐野厚生総合病院
栃木県佐野市堀米町1728
TEL:0283-22-5222(代表)
http://jasanoko.or.jp/