過去の教訓を生かして国際標準の医療安全を
1982年群馬大学医学部卒業、第3内科(現:血液内科)入局。米国立衛生研究所研究員、群馬大学医学部附属病院教授などを経て、2015年から現職。
2015年に就任した田村遵一病院長。医療安全を軸に「新たな群大病院」の構築を目指している。患者参加型医療の推進や、国内の医学部では初となる「医療の質・安全学講座」の開設。信頼回復への歩みを支えるのは地域の期待に他ならない。
―病院の役割について教えてください。
開設時、北関東の医学部は本学のみ。附属病院は長らく、地域唯一の中核病院でした。
現在でも群馬県のみならず、埼玉県北部や栃木県西部、加えて長野県や新潟県と、広域から患者さんがお越しになります。多くの方に頼られている病院ですから、果たすべき責任は大きいのです。
このような中、当院は医療事故を起こしました。多くの批判の声を受け止めると同時に、「群馬大学が長年培ってきた医療の質を絶対に落とさないでほしい」という、地域の期待や応援の声も少なからずありました。私たちにとって、大変ありがたいものでした。
―さまざまな改革の手ごたえは。
2017年11月、聖路加国際病院の副院長を務められた小松康宏先生を教授として迎え、大学院に「医療の質・安全学講座」を開設しました。
一つの病院が病院全体の医療安全を管理するために医療安全室を設けることは一般的になっています。一方で、この講座は、医療安全を医学の新しい分野として体系的に考察していくことが大きな目的です。
医療事故が起こった時にどう対応するか。限られた人数の中でどう対応すれば事故を防げるのか。また、どのような研修をすれば良いのか。
医療安全については、まだまだ分からないことが多いのが実情です。医療安全に対する考え方は国によっても違いますので、比較しながら全体を捉えることも必要でしょう。
私たちのこれまでの取り組みを理解してくださり、WHO(世界保健機関)とのつながりもできました。学生時代から医療安全について学び、知識を吸収できるプログラムの構築も考えています。私たちの教訓を発信して、医療安全に対する意識を高めていきたいと思います。
―地域連携に関してはいかがでしょうか。
新しい病院づくりの改革の一つとして、地域連携は重要なテーマです。これまでは、地域の医療施設との取り組みは多くはありませんでした。
そこで新たに始まった「地域医療研究・教育センター」の活動は、行政や医師会などと一緒になって県内の医師の教育に取り組むものです。狙いの一つは、群馬県の医師確保です。
これまでは伝統的に医局が県内の医師の派遣を実施していましたが、そうすると県全体の医師の配置に偏りが出かねません。
群馬県内の、どの地域でどれくらい足りないのかといった実態調査に改めて取り組むことができました。大学全体で県の医療について考えていくきっかけにもなったと思います。
―「開かれた病院」に向けた動きも。
「患者参加型医療」を取り入れたいと考え、患者さんの声を集める場を新たに設けました。
設置した患者参加型医療推進委員会には患者さんも参加。その中で、多くの患者さんから「カルテを開示してほしい」という要望がありました。2019年1月、院内のPCで入院患者さんがカルテを閲覧できるシステムがスタート。併せて、希望を確認し、インフォームドコンセントを録音して聞ける機能も盛り込みました。
開示を決定するにあたっては、職員の意識改革が欠かせませんでした。一人ひとりの声に耳を傾け、1年以上をかけて準備を進めてきました。職員の協力なくしては一連の改革はできなかったと思います。
群馬大学医学部附属病院
前橋市昭和町3-39-15
TEL:027-220-7111(代表)
http://hospital.med.gunma-u.ac.jp/