連携の「法人化」で医療と介護はどう変わるか
1981年名古屋大学医学部卒業、同第3内科入局。米ニューヨーク州立大学バッファロー校病理学教室留学、名古屋大学大学院病態内科学講座腎臓内科学准教授、藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)医学部腎内科学教授などを経て、2014年から現職。2017年地域医療連携推進法人尾三会理事兼務。
医療、介護分野の地域連携を促進する狙いで、2017年4月に施行された制度「地域医療連携推進法人」。初めて認定された四つの法人のうち、唯一、大学病院がメンバーに加わっているのが愛知県内で事業を進める「尾三会」だ。同法人の理事を務める藤田医科大学病院の湯澤由紀夫病院長に、法人設立までの経緯や現状などを聞いた。
―設立のきっかけは。
本学の医療や福祉分野での地域連携への取り組みは5年以上前から始まっていました。「豊明モデル」として全国的にも知られる地域包括ケアモデル事業がその一つです。
2014年に本学、UR都市機構、豊明市の3者は当市にある豊明団地の高齢者をサポートするため協定を締結。開業医と連携して訪問看護の実施をはじめ、地域包括ケアを推進する事業をスタートしました。
1970年代に建設された豊明団地は、55棟からなるマンモス団地です。住民の高齢化や独居が増加し、健康管理や見守りの必要性が高まっていました。
本学が看護師やセラピストらを養成する中で、学生たちがじかに高齢の方々と接し、学べる場を団地内に作りたいと考えたのです。
団地内に地域包括支援センターや「ふじたまちかど保健室」などを開設。学生や教員が健康に関する相談に乗ったり、交流を深めたりしています。また、住居費を大学が補助し、学生の団地への移住を促進しています。
これらの活動を通じて、かかりつけ医となる地域の開業医や介護施設との連携が進みました。急変時には当院が対応するというシステムも構築しています。
―もともと連携の土台がしっかりしていたのですね。
当院は医療安全の取り組みにも特に力を入れてきました。中でも、院内で亡くなられた患者さんをご自宅にお帰しする場合は、医療事故ではなかったかどうかを検証する仕組みを院内で構築しています。
このようなノウハウを地域の医療施設とも共有したいという声があり、2年前に立ち上げたのが「藤田あんしんネットワーク」。
私たちがこれまでに経験した医療安全の事例をもとに、インフォームド・コンセントの方法や、事故になり得るような具体的な事例などを一緒に学ぼうというものです。
自治体病院も含めて220の医療施設がネットワークに加盟し、勉強会などを通して連携が密になっていきました。
―大学を中心にした連携を法人化した狙いは。
医療や福祉を取り巻く環境が厳しさを増しています。これまで作り上げた連携を、さらに強固なものにしていく必要があります。
地域包括ケアシステムの最終的な狙いは、医療と介護がよりスムーズに流れること。私たちとしては、それを事業として成り立たせることで、システムを継続し続けることが大切だと考えています。
そこで浮上したのが「地域医療連携推進法人」制度でした。まずは、尾三会で医療から介護までの流れが構築でき、医療安全の質を上げることを第一に考えています。
また、この制度が目指す「医療と介護の緩やかな連携」という趣旨は、私たちが地域で実践している実態に合致しています。事業内容は、参加する法人の皆さんのニーズによって今後も変化していくと思います。
尾三会は7医療圏、22の施設でスタート。現在までに、参加組織は29施設に増えました。メンバーは急性期病院、ケアミックス型病院、慢性期病院、医院、介護施設とバラエティーに富んでいます。
医師、看護師などの人事交流や、共同の研修会を実施するなど、法人全体の医療、福祉の質を上げることに力を入れていきます。
尾三会全体の質が上がることは、地域医療への貢献に直結します。また、地域における本学の存在意義を示すことでもあります。
藤田医科大学病院
愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98
TEL:0562-93-2111(代表)
https://hospital.fujita-hu.ac.jp/