地域医療に貢献し優秀な人材の育成を
1987年久留米大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター、昭和大学医学部形成外科学などを経て、2007年から現職。
2001年に佐賀医科大学(現:佐賀大学医学部)に形成外科が開設されてから現在まで、同科をけん引し続けてきた。疾病への取り組みと佐賀大学医学部形成外科の特色、そして課題や展望について聞いた。
―形成外科教室と扱う疾患の現況は。
現在、医局員は18人。佐賀大学医学部附属病院での診療、研究、および専門医の教育を行っています。
形成外科は主として、機能回復とQOLの向上を目的とする専門外科です。診療の対象は大きく分けて外傷、先天異常、腫瘍、そして美容の四つです。
外傷には熱傷も含み、顔面や手足など、主に露出した部分のけが、骨折などが対象です。先天異常は口唇口蓋裂などの口唇変形、小耳症や埋没耳などの耳介変形、手足では多指症や合指症、さらにいわゆる「出べそ」なども含まれます。腫瘍は主に舌がんや咽頭がん、食道がんなどを切除した後の機能を回復する形成再建術などです。一般的に美容整形と言われている手術は病気とは認められませんが、生活の満足度を向上させる形成外科の専門分野です。二重瞼(まぶた)手術や顔面のシワとりなどがありますが、これらは保険適用外の自由診療なので、大学病院ではほとんど行っていません。
―佐賀大学医学部形成外科の特徴を。
九州には、国立、私立合わせて10の大学医学部がありますが、形成外科の講座を開講している大学は3校しかありません。また、診療科も設置していない大学病院もあり、「形成外科の空白地帯」があるのが現状です。
私自身は久留米大学医学部を卒業した後、昭和大学医学部形成外科学教室に入局し、初代教授である鬼塚卓彌先生の影響を受けて形成外科の専門医となりました。その後、海外留学などを経て2000年に佐賀医科大学に赴任し、現在に至っています。
私たちが力を入れている分野の一つに、糖尿病足病変の治療があります。糖尿病による血行障害や合併症から起こる壊疽(えそ)は、悪化すると足を切断しなければならないこともあります。私たち形成外科では、循環器内科、血管外科、糖尿病内科、腎臓内科、皮膚科、麻酔科などの診療科と連携して、糖尿病、透析患者の下肢救済と治療を行うプロジェクトを進めています。
これらの治療を継続的、かつ効果的に行うためには、診療科を横断したチーム医療体制が不可欠であり、週に1回、各専門医を集めたカンファレンスを実施しています。これまでにわれわれが足病変患者に対して行ってきた創傷治癒の概念を基にした共通の治療プログラムを作成し、2014年にはその内容をまとめた書籍「下肢救済マニュアル」を各科と共同で編集・出版しました。診断、治療、リハビリ、フットケアまで網羅したテキストになっています。
また、九州全体の形成外科医療をサポートするために、佐賀県医療センター好生館(佐賀市)、熊本赤十字病院(熊本市)、新古賀病院(福岡県久留米市)、大隅鹿屋病院(鹿児島県鹿屋市)に常勤医を派遣しています。
―今後の展望について聞かせてください。
社会のニーズに幅広く応えるのがわれわれの責務であり、世の中のためになる優秀な形成外科医を育てることもその一つです。
佐賀大学医学部形成外科は県内唯一の形成外科の教育機関です。ここには、県内外からさまざまな症例が集まり、あらゆる形成外科疾患を診ることができます。
多彩で豊富な症例を経験できるメリットを生かして優秀な人材を育成し、積み重ねた実績を九州に発信することで、幅広く貢献していきたいと思います。
佐賀大学医学部形成外科
佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511(代表)
http://www.prs.med.saga-u.ac.jp/