高齢化と人口減に"3本柱"で立ち向かう
1978年千葉大学医学部卒業、同第2外科(現:先端応用外科)入局。千葉大学医学部附属病院、千葉県がんセンターなどを経て、2016年千葉県立佐原病院医療局長、2018年から現職。
開院して60年以上の歴史を持つ千葉県立佐原病院。一般診療を担うとともに、救急医療をはじめとする急性期医療を提供する病院として地域とともに歩んできた。2年前に同病院に赴任し、2018年4月、病院長に就任した山本宏氏に、目指す病院運営について聞いた。
―病院運営の新たな方針として「3本柱」を打ち出されました。その中身を。
当院は、進展する高齢化(香取市の高齢化率・2018年4月現在34.3%)に対応するため2017年に3本柱を立てました。急性期医療、在宅医療、予防的医療の充実です。
新医師臨床研修制度の開始に伴い、当院も医師不足、医師の偏在に悩まされることになりました。しかし、県民からの存続を求める声、そして期待は大きい。そこで、「医師が集まらないから、患者が集まらない」と嘆いているのではなく、危機感を持って対応していくことを、明確に打ち出したわけです。
救急医療を含めた急性期医療の充実は住民からの強い要望でもあります。高齢者に多い肺炎、呼吸不全、消化器系疾患、脱水症、大腿骨骨折などへの対応のほか、罹患率の高い消化器がんなどの疾患に対応しています。
在宅医療に関しては、2016年に「訪問看護ステーションさわら」を立ち上げ、2017年には「機能強化型訪問看護ステーション」に指定されています。訪問看護の分野では、この地域では抜きんでた存在と自負しており、高い評価もいただいています。
ネックは訪問診療を担う医師が、まだ十分にいないこと。地域包括ケア病棟がありますので、しっかりした常勤医に担当してもらい、良い循環をこれから創出したいと考えています。
予防的医療に関しては2017年5月に健康管理センターをリニューアルしました。改めて、地域の健康寿命を延ばそうという思いで、最新の医療機器を使用した人間ドック、健康診断を実施しています。
―外部のコンサルタントも導入されたそうですね。
事務局長の発案で、2017年から民間のコンサルタントを入れ、病院運営に生かしています。
コンサルからは、「このドクターはここが良くない」などといった率直な意見もあります。私たち職員だけで分析すると、客観的でない部分も出てくる恐れがあります。専門家が分析したということで、当事者との話し合いなどにも説得力が生まれます。
病院というのは昔からそれぞれの診療科が独立してしまう傾向が強く、コンサルタントが入ったことで一つの病院として職員のみんなが考えるようになってきました。そういった意味でまとまりが出てきたと言えるでしょうね。まだ緒についたばかりですが、これからさらに効果は出てくると考えています。
240床ほどの病院で現在、常勤医は12人です。これは、いかにも少ない。多いときには30人いました。さまざまな場面で医師を募っていますが、なかなか難しいのが現状です。
―地域医療への思いを。
高齢者は医療だけでなく介護などの福祉も重要なファクターです。これからは行政と医療、福祉などを俯瞰(ふかん)できる人材がいないと病院の運営は難しいと考えています。
京都大学こころの未来センターの広井良典教授は、地方の生きる道として医療や福祉、介護などを中心にし、右肩上がりではない未来型経済圏をつくり出す町づくりを提案しています。私もこの考えに賛成です。その中で当院が中核の存在になればなどとも夢想しています。
ここ香取市は、江戸時代に日本地図を作った伊能忠敬を育てた土地柄です。地図づくりはものごとを俯瞰する力がないとできません。当院で地域医療に関わる新しい地図が描ければと考えています。
千葉県立佐原病院
千葉県香取市佐原イ2285
TEL:0478-54-1231(代表)
https://www.pref.chiba.lg.jp/sawara/