複数の柱で質の高い医療を 研究面も積極的に推進中
1982年慶應義塾大学医学部卒業、1989年医学博士。米ラホヤがん研究所(現:サンフォード・バーナム・プレビス医学研究所)、国立東京第二病院(現:独立行政法人国立病院機構東京医療センター)などを経て、2005年から現職。
1920年に開設した慶應義塾大学医学部産婦人科学教室。婦人科腫瘍を専門とする青木大輔教授は日本婦人科腫瘍学会の理事長でもある。子宮頸がんや子宮体がんの治療、がんゲノム医療の推進、人材の育成。さまざまなキーワードに目を向け教室の発展を目指す。
―近年の婦人科悪性腫瘍の傾向を教えてください。
子宮頸がんに関して言えば、30〜40代を中心とする若年層の割合が大きくなっていることが注視すべき問題の一つだと捉えています。しかし、その原因については、まだはっきりと分かっていません。
がんではないが、がんに進行する可能性が高いとされる「上皮内腫瘍」と呼ばれる前がん状態と診断されることで、子宮頸がんは発見されます。
早期に発見できた患者さんは、この前がん状態をいかに的確にマネジメントするかがポイントです。前がん状態が軽度や中等度の場合、多くは経過を観察することになります。高度のケースなどでは、手術療法による治療で細胞のがん化を防ぎます。
浸潤子宮頸がんでは、標準治療を着実に行うことが大切です。そして、もう一つ忘れてはならないのは、妊孕(よう)性への配慮です。
例えば、早期の浸潤子宮頸がんで、妊孕性を温存する手術の一つに子宮頸部を円錐状に切除する「子宮頸部レーザー円錐切除術」があります。
この術式で病変を取り除くことができない場合、次にどのような選択肢があるのか、治療の適応と患者さんの希望を踏まえて考えることが重要です。
病棟にいる患者さんのほとんどが、30代半ばから40歳前後にかけてです。晩婚化、晩産化が進んでいる現在、この年齢層の患者さんで、これから妊娠・出産を望む方も増えていくのではないかと思います。
―教室の強みは。
柱が一本ではない点だと思います。例えば、私は婦人科腫瘍全般を専門としています。婦人科腫瘍に対するアプローチのあり方も手術、抗がん剤、分子標的薬など、細分化されています。これらの医療を全般的に、高い質で届けることに努めています。
同じく当教室には、周産期分野、生殖医療分野など、それぞれに専門性の高い人材がそろっています。偏りのない医療、また教育を提供できる体制を心がけています。
若い医師に伝えたいメッセージの一つは、「標準治療に対するスタンスを大切にしてほしい」ということです。標準治療は、現時点の治療の中で最も広く医学的なコンセンサスを得ている、最良とされている治療法です。
標準治療の中には、日常的に取り組んでいる診療や検査といった、極めて「当たり前」と感じられるものも含まれます。
ベーシックなものだからこそ、しっかりと理解し、正確に実行できることが大切だと思っています。
また、バックグラウンドとして高い倫理観を持っていることも求めたいと思います。ある患者さんに対して標準治療が使用できないとき、臨床試験として治療を継続することがあると思います。臨床試験をきちんとハンドリングし、計画的に進行させ、管理できる。それを正しく遂行するには倫理観が不可欠です。
―今後は。
引き続き、基礎研究や臨床研究に力を入れていきます。
慶應義塾大学病院は「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定されていることもあり、がんクリニカルシーケンスだけでなく、遺伝性婦人科腫瘍についても研究を進めています。また、免疫療法に関するプロジェクトも動き出しているところです。
ほかにも低侵襲手術として子宮体がんのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術の確立、子宮頸がん検診のコホート研究と、介入研究ー。意欲的に取り組んでいきたいと思います。
慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室
東京都新宿区信濃町35
TEL:03-3353-1211(代表)
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