増える「ハイリスク」 母と子を守れる医療を
1981年京都府立医科大学卒業、同附属病院。米バッファロー医学財団研究員、京都府立医科大学大学院医学研究科女性生涯医科学(産婦人科学教室)教授などを経て、2017年から病院長兼任となる。
「世界トップレベルの医療を地域へ」を理念に掲げる京都府立医科大学附属病院。北脇城病院長は産婦人科学教室の教授でもある。
―産婦人科学教室の特徴は。
主に周産期分野、産科分野、婦人科腫瘍学分野、生殖内分泌分野の四部門に分かれています。加えて更年期障害など、女性の一生を診るヘルスケア分野にも力を入れており、講座の役割は多岐にわたります。
一口に産婦人科と言っても関連する学会の分野が細かく分かれています。同じ産婦人科医であっても、学会ではほとんど自分の専門領域以外の先生と話す機会がないほどです。それだけ、各分野が深く掘り下げられていると言えるのかもしれません。
当講座は、伝統的に腹腔鏡下手術を得意としてきました。この手術は低侵襲で患者に優しい一方で「医者に厳しい手術」と冗談めかして言われるほど、高い技術が求められます。医師は常に技術を磨いていく必要があります。
悪性腫瘍分野では、2018年4月から子宮頸がんに対する腹腔鏡下手術と、子宮体がんへのダビンチによるロボット支援下手術が保険収載されました。腹腔鏡下手術は今後ますます発展すると期待しています。
―感じている課題は。
府内の地域格差です。京都は10万人当たりの医師数が全国でトップと言われています。ただし、それは京都市内に限ってのこと。
京都府は縦に長細い地形で、南北の距離はおよそ200km。特に、北部の日本海側や南部の山間部となると交通が不便なため、医師数は全国平均を下回ります。都道府県単位での比較では、府内の偏在が見えにくくなってしまうのです。
本学は附属の「北部医療センター」(与謝野町)に医師を派遣しています。もともと1953年に開設された府立療養所で、「与謝の海病院」を経て2013年から本学の分院になりました。
分院であっても医師の派遣はそう容易ではありません。特に若手の医師の場合は、子どもの教育面を考えて都会での勤務を希望することも少なくない。
また、新専門医制度に対応するためには、診療科によっては都会の病院でなければ規定の症例数を経験できないというケースも見受けられます。その点、産婦人科の場合は差がありませんので、比較的前向きに地方に行ってくれるので助かっています。
また、医療の地域格差の是正を目指して、2009年から府内に敷設された光ファイバーケーブルを活用。当院と府内の7病院を結んで遠隔医療にも取り組んでいます。
各病院から当院に画像を送信してもらい、胎児超音波スクリーニングを実施しています。遠方の患者さんが、より高度な検査を受けることが可能です。
地方への医師の派遣については、行政、地域に理解してもらう努力が必要でしょう。府内の分娩数が減少する中、産婦人科医療のあり方を長期的に考える必要がありそうです。
―今後について。
ハイリスクのお産の比率が高まっており、医療機関の受け入れ体制の整備が求められています。
背景にはさまざまな事象があると考えられます。特に初産率の上昇や、妊産婦の高齢化が進んでいることなどが挙げられます。
高齢出産は難産率が高くなります。国内のここ数年の帝王切開率は20%超です。私が医師になった30数年前は5%程度でした。
2018年4月、3室のMFICU(母体・胎児集中治療室)を開設しました。妊娠高血圧症候群や切迫早産といった重い合併症を持つ母親やまた、心臓病などの疾患を持つ胎児などを出産前から受け入れ、早産や未熟児に備えます。
MFICUの開設は、教授に就任した10年前からの悲願でした。実現できて本当に感慨深いです。
京都府立医科大学附属病院
京都市上京区梶井町465
TEL:075-251-5111(代表)
http://www.h.kpu-m.ac.jp/