発達障害のネット依存が今後の新しい課題に
1992年長崎大学医学部卒業、同精神神経科学教室入局。2000年長崎大学大学院医学研究科博士課程卒業(医学博士)、長崎県精神医療センター、上五島病院、長崎中央児童相談所(非常勤)、長崎大学大学院精神神経科学准教授などを経て、2016年から現職。
長崎大学病院に「地域連携児童思春期精神医学診療部」が開設されてから3年。医師の育成、児童相談所との連携はどのように変わってきたのだろうか。
―この3年の取り組みについて教えてください。
かつて、佐世保市と長崎市で子どもが子どもを殺害するという不幸な事件が起き、その3ケースとも発達障害か、その可能性が高いという診断が下されました。発達障害の子どもすべてが事件を起こすわけではありませんが、生まれつきの傾向と育ちの部分の両方に向き合っていく必要性から、地域連携児童思春期精神医学診療部ができました。
まず取り組んだのが「子どもの心のサポート医」の育成です。長崎県は離島や県北部も離れていますので、月に1回、精神科医や看護師、臨床心理士など最大90人が参加してWEB会議を行っています。医師にはレポートを提出してもらい、審査をして一定の基準を満たすと「子どもの心のサポート医」として、長崎県知事と私の名前で証書を授与しています。
初年度で12人、2年目は7人、これまでに22人がサポート医になりました。まだ実績も数も不足していますが、大人の発達障害も含めて発達障害を診ていこうという機運が、長崎県全体に確実に広がってきていると思います。
―児童相談所との連携は。
佐世保の事件では、地元の児童相談所への精神科医の関わりが少なく、発達障害に詳しい職員も少なかったことが問題となりました。そこで週に1回私が佐世保へ出向いて、発達障害の講習をしたり、実際に問題のある子どもたち数人に会って、今後の方針のアドバイスをしたりしています。
精神科の医師で小学生以下の子どもの診察を引き受ける人は少なく、また子どもたちは自分の状況をうまく言葉で表現できないので、精神療法が通用しません。それでも佐世保のあるクリニックの医師から「手伝いたい」という申し出をいただき、少しずつですが希望が見えてきました。
昨年からはトラウマ、愛着障害について児童相談所と一緒になって取り組んでいます。4、5歳くらいまでの親との関係がうまくいかないと対人関係が正しく形成されません。WEB会議でもペアレントトレーニングの話をしていますが、医師が関わることで、ネガティブになりがちな親の視点を変えることができればと考えています。
―発達障害は増えていますか。今後の課題は。
一般的には、発達障害は見過ごされてきたと言われますが、生物学的な変化も要因として考えられます。さまざまな環境要因により一部の遺伝子の発現が変わり、脳機能の一部にも影響が及んでいる可能性があります。
もう一つは文化的な変化。発達障害のある人が苦手なコミュニケーション力が必要とされる社会の中で、能力が高くてもうまくいかず、検査に訪れる人が増えてきています。
そのような社会の中で今後重要になってくるのが、ゲームを含めたインターネット依存です。ICD(国際疾病分類)の第11版にも、新しくゲーム障害が取り上げられました。話さなくてもオンラインでつながる、はまってしまって抜け出せなくなるといった行動嗜癖が見られる子どもたちの対応を考えていかなければなりません。ただし、インターネットがあることで救われた子もいるので、すべてが悪いわけではありません。マイナス面もしっかりと理解し利用するためには、学校での指導も必要になってくるでしょう。
長崎県では佐世保の事件以降、学校、行政、警察も含めて、みんなで支えようという思いが広がりました。問題のある子がいた時に気づく人、助ける人は多くなったと思います。地域連携児童思春期精神医学診療部をスタートさせたことは、決して無駄ではなかったと確信しています。
長崎大学病院 地域連携児童思春期精神医学診療部
長崎市坂本1-7-1
ETL:095-819-7200(代表)
http://www.mh.nagasaki-u.ac. jp/seishin-kodomo/