多種多様なシステムで"糖尿病"に立ち向かう
1986年宮崎医科大学医学部卒業、九州大学医学部第一内科入局。2000年九州大学学位(医学博士)。福岡大学糖尿病先進医療センター、佐賀大学医学部内科学講座肝臓・糖尿病・内分泌分野准教授を経て、2011年から現職。
自覚症状がほとんどなく、気づいたときには合併症が進行していることもある糖尿病。佐賀県では全人口およそ82万人の約16%が糖尿病もしくはその予備群だという。佐賀大学の安西慶三教授に取り組みを聞いた。
―糖尿病患者の割合が高い理由と対策を。
糖尿病の発症には食事と運動習慣が背景にあります。江戸時代、輸入された砂糖は長崎の出島から長崎街道「シュガーロード」を通り、佐賀、福岡の小倉、大阪、江戸へと運ばれていました。
昔から甘いものが身近にあることから甘いものを食べる習慣となり、さらに野菜の摂取量が全国より低く1日80gの野菜摂取不足状況にあります。また、佐賀県民の1日あたりの平均歩数はここ10年で約800歩も減って、運動習慣は全国平均以下です。これらが糖尿病患者の増加へとつながった一因でしょう。
佐賀県は糖尿病患者の増加だけでなく合併症にも課題がありました。そのため佐賀県では2016年から佐賀県「ストップ糖尿病対策」事業を実施しています。これは医療機関・保険者・県および医師会を始め各職能団体が一丸となり糖尿病の1次、2次、3次予防を行うものです。医療連携においては2011年から基幹病院の糖尿病療養指導士の資格を持った看護師が同じ2次医療圏の診療所を訪問して、インスリン治療、フットケアなどかかりつけ医の方の要望に応じて糖尿病診療の支援をする「糖尿病コーディネート看護師事業」を行っており、かかりつけ医の方からも感謝され、県内の糖尿病診療の連携と平準化に貢献しています。
特に力を入れているのは「糖尿病性腎症重症化予防」と「佐賀県糖尿病連携手帳」の活用です。糖尿病連携手帳は糖尿病に関わる検査結果などを記録できるほか、患者自身が自分の状態がわかるように糖尿病の解説、日常生活での注意点、緊急時の対処法などを掲載しました。この手帳を活用して市町の保健師と協働で「糖尿病性腎症重症化予防」を行っています。2000〜2013年の新規透析導入患者伸び率が全国1位でしたが、2017年は2013年と比較して糖尿病が原疾患の新規人工透析導入が32%減少し成果を挙げています。
―日本糖尿病情報学会の理事長、日本糖尿病協会の執行理事も務めていますね。
糖尿病の医療現場では個人の血糖・生活習慣管理、医療機関内のチーム医療、地域における医療機関と在宅医療を含めた地域包括ケアシステム、遠隔医療、行政におけるデータヘルス事業、糖尿病性腎症重症化予防などさまざまな場面でデータの活用が必須となっています。データを医療現場で活用するためには医療機関だけの取り組みでは不十分であり、企業、行政との連携が必要です。日本糖尿病情報学会は医療者がデータを利活用できるための医療者の育成や医療者・医療機関と企業、行政とのネットワークのプラットフォームとして糖尿病医療に貢献しています。
私は日本糖尿病協会では医療者教育委員会を担当しています。その中で2016年より「糖尿病療養指導カードシステム」の普及を進めています。このカードシステムは患者ごとにテーラーメイド可能な療養支援のツールです。予め用意した79枚のカードとそれぞれに対応した指導箋を組み合わせて指導計画を立てます。そして患者の状況の変化に応じてカードを入れ替えタイムリーな療養支援を提供します。現在全国で約2千人の方が研修会を受講し、各医療機関で使用されています。
糖尿病の合併症は今までの血管合併症以外に歯周病、認知症が加わり、最近では脂肪肝から肝硬変、肝がんに進展する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も糖尿病患者で発症しやすいことがわかっています。肝臓を専門とする医師との連携や医科・歯科連携も、これからより充実させていきたいと思っています。
佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科学
佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511(代表)
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