本人と家族の思いが最優先 外来と訪問で安心を
2016年6月、福岡県大野城市で開院したかんた内科医院。救命救急医療の経験を生かし、外来と訪問診療の両輪で「地域のかかりつけ医」を目指す菊間幹太院長に、在宅医療の現状と医院運営について聞いた。
―開院に当たり、地域の医療機関や医師会との関係をどう構築されましたか。
開院前すでに福岡のさまざまな医療機関や先生方とお付き合いがあり、地域の医師会には早めにごあいさつをしていたため、開院と同時に入会することができました。
また、当院は地域医療や福祉の核となる地域包括支援センターと同じ建物に入っているため、しっかり連携して関係を深めています。地域包括支援センター併設のクリニックは日本でも数少ないと思います。
高齢化社会を迎え、国は在宅医療を推進しています。当院は午前外来、午後は訪問診療という二つを軸として、元気なうちは外来に通院していただき、通院が難しくなっても私たちが変わらずに診療を続け、看取(みと)りまで携わっています。開院して3年目、患者さんとご家族に寄り添った丁寧な対応を心がけてきた結果、医療機関や在宅介護支援事業所からの信頼も深まっています。
連携に当たっては、私もスタッフも研修会などに積極的に参加して、顔の見える、想(おも)いもわかる関係性を大切にしています。また、全員診療を掲げて院内外で情報共有に力を入れています。
例えば、看取りに関するパンフレットを作成し、施設職員の方々にどんな経過になっていくのかをお伝えすることで、慌てて救急車を呼び、ご本人もご家族も望まない病院への搬送を防ぐことができます。何よりもご本人やご家族の意向を最優先にして、教科書通りではない、一人一人に合った柔軟な対応を徹底するように心がけています。
―訪問診療の際は、医師と看護師に加えて事務職も同行されると聞きました。
質の高い診療と患者さんの安心感につながるように、3人のチームで訪問しています。朝夕のカンファレンスではその日の診療についてスタッフ全員で共有し、誰でもすべての患者さんの状況がわかるようにしています。さらに訪問して患者さんの生活や思いを直接知ることで、スタッフは自らの役割を認識し、人間的にも豊かになっています。
患者さんやご家族は、医師には言いづらいが看護師に伝えたいことがあるかもしれないし、事務職に相談したいことがあるかもしれない。顔がわかり、想いを表出できる相手が増えるのはいいことでしょう。また、医院に電話されたとき、誰が電話をとっても状況を把握していて対応できることは、患者さんたちの大きな安心感につながります。
先日こんなことがありました。末期がんの男性が病院から自宅に帰り、当院で担当することに。娘さんの結婚式を控え、出席を望まれていることがわかりました。スタッフ全員で話し合い、実現しようと決意。式場と打ち合わせをした上で、控室に当院とお付き合いのある事業所のご厚意で介護ベッドや酸素濃縮器を設置したり、リクライニング車椅子を用意したりと入念に準備しました。
当日は私と看護師、事務長が同行。式の最中、それまで動けなかった患者さんが娘さんの手を取ったり、写真撮影で目を開かれたりと、奇跡的なシーンを目の当たりにしました。式の4日後に息を引き取られましたが、ご家族に感謝され、私たちにも大変印象深い出来事となりました。
現在スタッフは10人、医師は私1人です。おかげさまで皆さまからのご要望も多く寄せられるようになりました。今後は、医師もう1人、スタッフ総勢13人までの体制で、半径3㎞圏内の方々に気楽に相談していただけるかかりつけ医になれるよう、スタッフ一丸となり全力で取り組んでいきます。
医療法人かんた内科医院
福岡県大野城市中2-3-1
TEL:092-513-0120
http://kantaclinic.com/