近畿大学の西村恭昌教授(放射線医学教室放射線腫瘍学部門)が大会長を務める「日本放射線腫瘍学会第31回学術大会」が、10月11日から13日まで、国立京都国際会館で開かれた。サブテーマは「守破離」。多彩なプログラムが用意された。
医療のさらなる躍進にむけて 〜女性の活躍への期待〜
日本女性放射線腫瘍医の会(JAWRO)企画講演
女性の視点から独自の取り組みや研究成果などが発表された日本女性放射線腫瘍医の会(JAWRO)の企画講演。座長は鳥取大学放射線治療科・内田伸江氏と、伊勢赤十字病院放射線治療科・伊井憲子氏が務めた。
聖路加国際病院ブレストセンターの山内英子氏は「次世代へつなぐ医療のビジョン―女性のレジリエンスをいかして―」と題して講演した。
がん患者が仕事や家事から離れることで生じる経済的な損失は、およそ1兆8000億円にも上るというデータがある。就労支援は喫緊の課題だ。
「当院では治療と仕事の両立支援をはじめ、治療に伴う見た目の変化を美容の観点から解決するなど、乳がん患者を多面的にサポートする"リング"プログラムを展開。がんと診断される前よりも美しく、強くなってほしい」と山内医師はエールを送った。
京都大学大学院医学研究科腎臓内科学の柳田素子氏(写真)の講演テーマは「急性腎障害(AKI)から慢性腎臓病(CKD)への移行メカニズム」。近位尿細管障害が主因のAKIは致死率が高く、末期腎不全やCKDに至る病態として世界的にも注目されている。
柳田氏は研究の成果について、次のように報告した。「近位尿細管単独の障害がAKIを惹起すること、線維化や腎性貧血を誘導すること。それにより糸球体硬化をはじめとする広範なネフロン障害、ひいてはCKDや慢性腎臓病が惹起されることを証明した」
近位尿細管障害の強さと頻度がCKDへの移行に重要な影響を及ぼしていることも明らかになった。
JAWROは2009年に設立。女性放射線腫瘍医の交流を促進し、次世代の活躍の場を広げることを目的に活動している。
【学会合同シンポジウム】「緩和医療における放射線療法の役割」
10月12日に開かれた日本緩和医療学会との合同シンポジウムは初めての試み。「緩和医療における放射線療法の役割」について、それぞれの視点からポイントを語った。(※一部抜粋)
「基本的緩和ケアと専門的緩和ケア ─基本的緩和ケアを学ぶ場としての緩和ケア研修会」
山本 亮氏(佐久総合病院佐久医療センター緩和ケア内科)
がん、非がんを対象とした「基本的緩和ケア」の能力は専門職だけでなく、すべての医療従事者が身に付け実践すべきものだ。
卒前・卒後教育において緩和ケアを学ぶ機会は十分に確保されておらず、緩和ケア研修会の受講率も伸び悩む状況にあった。
「第2期がん対策推進基本計画」(2012年)において、がん診療に関わる医療従事者には「緩和ケアの基本的な知識と技術の習得」が求められるようになった。また、緩和ケア研修会の定期的な開催が「がん診療連携拠点病院」の指定要件に盛り込まれたこともあって、2017年末時点でおよそ10万人が緩和ケア研修会を受講した。
いまだ必要とする患者に緩和ケアが行き届いているとは言えない。がん患者の多くが拠点病院で亡くなっている。「拠点病院以外での緩和ケア教育」と「地域連携」が今後の課題の一つだろう。
非がんの緩和ケアも議論が必要。緩和ケア研修会はがんに関連した内容が主だった。高まるニーズに応えるべく、今後は心不全に対する緩和ケアの研修を盛り込む計画を進めている。
「予後を予測し、治療・ケアのゴールを話し合う」
阿部 泰之氏(旭川医科大学病院緩和ケア診療部)
患者の予後を予測し、その時期に見合った医療やケアを提供していく。がん医療に携わる医療者の共通認識である。その中で「客観的な指標」の確立を目指す動きが活発化している。
そのための手法の一つが日本で開発された「Palliative Prognostic Index(PPI)」で、呼吸困難、浮腫、せん妄などの予後を客観的な評価で行うもの。予測できる範囲は3週間未満または6カ月以上。感度の高さや簡便さから広く活用されている。
患者から「予後を知りたい」と要望がある際には「言葉の裏にある意味」をくみ取るよう努め、共有することが大切だ。
患者を医療に当てはめるのではない。患者の目標や価値観を軸にして放射線治療、抗がん剤治療、緩和ケアなどを用いて支えることが「意思決定の支援」である。
支持療法などで症状を緩和しながら、将来の意思決定能力低下に備えておくことも意識しておく必要がある。治療やケアのゴールを患者やその家族と話し合うことが重要だ。
「緩和的放射線治療の現状と課題」
永倉 久泰氏(KKR札幌医療センター放射線科)
早期の緩和ケアが生存期間の延長に寄与することは海外の研究でも明らかになっている。
しかし「医療資源の浪費でマンパワー不足を招いているのでは」「治らない患者になぜ照射するのか」と医療者から疑問を呈されるなど、緩和的照射は治療成績向上の「足かせ」のようにも捉えられてきた。
さらに、緩和ケアという言葉に対するイメージは良いとは言えず、普及を阻む一因となってきた。また患者や家族に「緩和ケアとは何か」を正しく理解してもらうことも難しかった。
そこで近年は、緩和医療科を「支持医療科」、緩和ケアチームを「がん治療サポートチーム」などと言い換えることで、患者が緩和医療を受け入れやすくなっているという報告も届いている。
現在、北海道では乳房温存治療に対応できない地域があるなど、放射線治療の空白地帯が存在する。
放射線治療施設の均てん化を図り、空白地帯を解消する。北日本の放射線治療医の大きな願いだ。