診断からすべてが始まる根本治療開発を目指して
難治性・遺伝性の皮膚疾患「表皮水疱症」をはじめ、長きにわたり水疱症の検査・治療・研究を続けている久留米大学。根本的な治療法がない表皮水疱症における診断の大切さ、また、長年の取り組みについて話を聞いた。
―根本的な治療がない中で久留米大学皮膚科学講座の果たす役割は。
表皮水疱症は、単純型、接合部型、栄養障害型、キンドラー症候群と4型に分類され、病型によって、予後や気をつけるべき合併症がまったく異なります。
最も重要になってくるのが正しい診断です。久留米大学では、長きにわたり自己免疫性水疱症(天疱瘡)の診療と抗原解析を中心とした研究に取り組んできました。表皮水疱症においても専門外来を開設し、検査や治療、遺伝カウンセリングを行っています。
特に、遺伝子検査、電子顕微鏡検査、表皮基底膜部抗原局在検査を用いた確定診断には力を入れています。単純型であれば一般的には年齢とともに軽くなると言われていますが、劣性栄養障害型であれば大人になっても治療が必要です。
また、合併症で指が癒着したり、食道狭窄(きょうさく)になったり、あるいは悪性の皮膚がんを発症する可能性も高まっていくため、注意深く経過観察していきます。
―診察や治療の方法は。
根本的な治療がないだけに、基本的には外用薬や創傷被覆材を用いる対症療法になります。
また夏場になると二次感染する可能性が高まりますし、傷からの出血、貧血も起こりやすくなります。患者さんによって症状が異なるので治療もさまざまで、特に小さなお子さんの場合は、全身管理が必要になってきます。指の癒着なら形成外科、歯の並びが崩れる症状などでは口腔外科といったように他診療科との連携も欠かせません。
患者さんは福岡、佐賀、長崎、熊本など、九州各地から訪れています。継続的な治療となるので、通常は近くのクリニックに通院いただきながら、年に1〜2回は久留米大学で診察を受けていただいています。
根本的な治療法については、世界的にみてもまだ研究や治験レベル。臨床への応用はまだまだ難しい状況ではありますが、いずれは治療法ができるのではないかと期待しています。当講座としても治療法の開発のため、変異に基づく病態の解明に力を入れていきたいと考えています。
―久留米大学は水疱症研究の歴史が長いそうですね。
先代、先々代教授と約20年、3代にわたって水疱症の研究に力を注いできました。特に、自己免疫性水疱症の抗原解析を広く担っており、今までに蛍光抗体法、免疫プロット法、ELISA法など自己免疫性水疱症の免疫学的観察ツールを開発。全国から数多くの血清サンプルが送られてきており、診断の一助となるべく日々解析、研究に取り組んでいます。
さらに、教室として皮膚科全般の研修を実施するとともに、教室員全員がサブスペシャルティを持つことを目指しています。皮膚科の診療は非常に幅広く、その中で「この分野なら誰にも引けを取らない」という、各個人の専門性を高めることが大切です。
われわれは、そのサブスペシャルティを生かし、一般の皮膚疾患の診療に加えて、専門外来を設置。水疱症外来をはじめ、乾癬(かんせん)外来、脱毛外来、悪性腫瘍外来、アレルギー・パッチテスト外来、レーザー外来など、各1〜2人の医師が専門性を持って対応しています。
40年以上前に「日本研究皮膚科学会」の前身である研究会ができたことからもわかるように、皮膚科は研究者としての視点が非常に重要になる分野です。たとえ短期間であっても研究に打ち込むことが必要で、それが臨床に必ず還元されると信じています。
久留米大学医学部皮膚科学講座
福岡県久留米市旭町67
TEL:0942-35-3311(代表)
http://kuruhifu.com/