AIの活用や疫学調査 挑戦する心は尽きない
およそ60人の医局員を束ねるのは、5代目の大鳥精司教授。「自主性を重んじる」という方針のもと、個々の関心に応じて技術を高めたり、研究に打ち込んだりできる教室づくりを進めてきた。就任3年目の今、次のステップに進むための準備も着々と進んでいるようだ。
医局員の個性を最大限に引き出す
―講座の特徴を教えてください。
脊椎(頸椎、腰椎、側弯)、上肢(手外科、肩関節)、リウマチ・股関節、スポーツ・下肢(膝関節、足部・足関節)など、整形外科疾患のほぼすべてをカバーできる診療・研究グループが活動しています。
専門性の土台には、50施設もの教育関連施設で学ぶことができる多彩な経験や知識があります。オールラウンドな整形外科医を育成するとともに、講座全体としてもバランスよく、各グループの底上げを図っていきたいと考えています。
1954年に開講して以来、受け継がれている教えは「義理と人情」です。それぞれの「良さ」を伸ばすという考え方が根付いており、私自身が最も心がけているのも、自主性を尊重することです。
よく若い人を「ゆとり」などと表現するでしょう。世代間のコミュニケーションがうまくかみ合わないのは、世代としてひとくくりにしているからだと思います。実際、当講座では基礎研究、臨床研究ともに活発で、論文の本数や症例数も増加傾向にあります。
あくまでも一人一人の個性、強みを引き出す。それが私の信念です。
10年間に及ぶ2大プロジェクト
―新しい取り組みも始まったそうですね。
今春、厚労省の支援を得て、関連病院との共同事業として「検査画像の登録事業」を開始しました。
整形外科疾患の診断では検査画像をいかに読み解くかが大切なポイントです。ただ、正確な診断のためには、かなり高度な能力や豊富な経験が求められます。
例えば「骨の異常」といっても、がんの転移によるものか、それとも骨粗しょう症が原因なのかを見極めるのは、実は専門医にとっても非常に難しいのです。
そこで、AIを用いることで、画像診断の精度を向上させる技術の研究を進めています。本事業であらゆるパターンの画像を収集して記憶させ、正確な診断を導き出せるソフトウエアを開発します。
AIのサポートによって医師の経験の差などに左右されることなく、一定の質を維持できるでしょう。
人間の目ではとらえることができない情報も、AIなら見つけ出すに違いありません。10年後の実用化を目標に、取り組みを進めているところです。
当講座はこれまで、大規模な疫学調査を実施したことがありませんでした。私としては、以前から「いつか実現したい」と考えており、挑戦する機会をうかがっていたのです。
さまざまな自治体に相談してみたところ、千葉県南部のある町が協力してくれることになりました。
調査対象は、腰痛や膝の痛みに悩む患者さん。町内にどれくらいの数の患者さんがいるのか、発症の原因の内訳は。
また、どのようなタイプの方の症状が進行するかなど、定期的な検査を実施しながら、10年間で追跡していくプロジェクトです。スタートは、2019年を見据えています。
健康長寿の未来に貢献したい
―今後の整形外科の役割についてどう思われますか。
平均寿命と健康寿命の開きを、いかに縮めていくか。これからの整形外科の大きな役割だと思います。そのためには、予防と治療の両方の面で、私たちが積極的に関わっていくことが必要でしょう。
千葉大学医学部附属病院は、2017年、国立大学病院としては6番目の「臨床研究中核病院」に承認されました。国内の臨床研究を担う病院の診療科として、医療のさらなる発展に貢献できる研究を推進したいと思っています。
千葉大学大学院医学研究院 整形外科学
千葉市中央区亥鼻1-8-1
TEL:043-222-7171(代表)
http://www.chiba-orthopaedics.com/