グローバルな視点をローカルへの貢献に生かす
ここ3年間の経営努力が実を結び、強固な財政基盤の構築が実現した筑波大学附属病院。4月に就任した原晃病院長のもと、いよいよ「攻め」に転じようとしている。目指すのは、グローバルな視野でローカルな課題を捉えることのできる医療人の輩出。新たな施策を次々と打ち出している。
―目指す病院は。
患者さんと医療者の双方を引き付ける「マグネットホスピタル」です。
現在、茨城県には高度救命救急センターがありません。4月、承認を目指して合併症のある患者さんや難治症例を受け入れる高次救急センターの運用が始まりました。
「研究都市」という地の利を生かして「T-CReDО(筑波大学つくば臨床医学研究開発機構)」を軸に、さまざまな研究機関の医療技術に関わるシーズ(研究成果)を集積。臨床開発などを進めています。AМED(日本医療研究開発機構)の「橋渡し研究戦略的推進プログラム」の拠点にも採択され、実績を重ねているところです。
良質な医療の提供はもちろん、医師に限らずすべての「医療人」の育成を担っていくことが不可欠だと考えています。
茨城県は、2002年以降、連続で人口10万人当たりの医師数が全国ワースト2位。問題の本質は数そのものよりも「偏在」です。
特に、県の中心である水戸から北側のエリアや県南東部の千葉県との県境である鹿行地域などは、圧倒的に不足しています。
―改善の策は。
偏在解消のプロジェクトとして、当院では「地域臨床教育センター」事業を運営しています。
水戸協同病院への設置をはじめ、県内各地の医療機関に筑波大学の教員5人以上を配置している「地域医療教育センター」7カ所、5人未満の「地域医療教育ステーション」3カ所を整備。地域の医療現場で診療、教育、研究に取り組んでいます。
この10月、茨城県西部メディカルセンター(筑西市)に、自治医科大学と「合同茨城県西部地域臨床教育センター」を新設しました。筑西・下妻医療圏の医療の充実を目指し、両大学から5人ずつ医師を派遣しています。二つの大学が共同で教育センターを設置するのは県で初。全国的にも珍しいケースでしょう。
鹿行地域では、昨年9月から神栖済生会病院(神栖市)とともに、映像配信システムを活用した遠隔治療サポートを展開。およそ68km離れた両院を結び、例えば実際の狭心症のカテーテル治療などを当院の医師が遠隔で指導しています。
―人材育成について。
3年前までの赤字を黒字化するにあたり、新たな機器の導入などを抑制してきました。耳鼻咽喉科・頭頸部外科グループの教授であった私自身も含め、現場には「もっといい医療を届けたい」という思いが募っていたと感じます。
その思いに応え、医療者が集まる病院にしたい。マグネットホスピタルという言葉に込めた意味です。
近年、ベッドサイドでの教育の重要性が叫ばれています。例えば、米国の医師国家試験を審査するECFМGが「2023年以降はWFME(世界医学教育連盟)の認証を受けた医学部の卒業者にのみ受験資格を認める」とした「2023年問題」。
米国では70週以上の臨床教育が一般的です。ECFМGの通告があった2010年当時、日本で70週以上のベッドサイドラーニングを実施している大学は当学を含めて数カ所でした。事実、米国医師国家試験の受験者数は、筑波大学が最も多いのです。
高度な医療を維持するためにも海外に目を向ける若い医師を増やしたい。そして、留学で得た知識や経験を地域に還元してほしいと思います。「じっととどまる」ことだけが地域医療への貢献ではありません。グローバルな視点で捉えることが大切だと思います。
筑波大学附属病院
茨城県つくば市天久保2-1-1
TEL:029-853-3900(代表)
http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/