心身を総合的に捉え診断・治療の精度を高める
術後の高齢の入院患者に起こりやすい「せん妄」や認知症に対する「リエゾン精神医療」の取り組みが進んでいる。医療の高度化で高齢者にも侵襲の大きな手術が行われるケースが増加したためだ。こうした例を含めて、精神科領域で求められる医療の多様化が進んでいる。
―リエゾン精神医療のニーズが高まっています。
当教室のリエゾンチームの活動は、意識レベルの低下や、幻聴や幻覚、つじつまの合わない言動といった「せん妄」への対応が中心です。
せん妄は身体的な疾患の影響による精神症状で、重篤な疾患の方や、体に大きな負担がかかる手術を受けた方などに現れやすいのです。高齢の患者さんに多く、特別なものではありません。誰にでも起こりうると言っていいと思います。
特定の疾患を対象としているわけではありませんから、各診療科の病棟と密に連携して対応していくことが大切です。患者さんに変化があれば、すぐに精神科の医師が駆けつけられるよう、当教室では病棟ごとの担当者を決めています。
私たちリエゾンチームと一緒に経験を重ねていくことで、各科の医師や看護師による精神症状への対応力も高まってきていると感じています。
―精神科が対象とする領域は多様ですね。
精神疾患全般に対する総合的診療に取り組んでいることが特色です。例えば当教室が開設している専門外来の一つに「てんかん」があります。
国内において、適切な診断と治療を行える医療機関の整備はまだ進んでいません。脳神経外科や神経内科でも、専門的な取り組みはなかなか広がっていない状況にあります。
てんかんの症状は、薬物を用いたコントロールで発作を抑制することが可能です。しかしながら、しかるべき医療を受けられない患者さんが多くいらっしゃるのが現状です。
20年ほど前から、専門分野の一つとして「性同一性障害(GID)」の診療に力を入れてきました。当院の専門外来を受診している方の中にも、多くの「性別適合手術を受けたい」と望んでいる人がいます。
これまで、GIDについてはカウンセリングなどの精神療法が保険適用。ホルモン療法、性別適合手術は自費診療でした。
今春、性別適合手術が保険適用となりました。ところが、ホルモン療法との併用はできません。すでにホルモン療法を受けている場合は対象外となり、手術が可能な方は限定されます。
保険適用を要望する声が高まっている一方で、中には「病気と捉えるべきではない」という考えをもつGIDの方などもいます。慎重に議論を重ねていく必要があると思います。
―進めている研究は。
精神疾患に関係しているさまざまな原因遺伝子が報告されています。ただ、どのようなメカニズムによって発症へと至るのか、明らかになっていません。
当教室では、統合失調症やうつ病に似た症状が現れる「非定型精神病」の患者さんとそのきょうだいの塩基配列の解析と比較を進めています。両者が持つおよそ30億塩基対の「差異」の中に、疾患の原因を解き明かすカギがあるのではないかと考えています。
統合失調症は他の精神疾患と区別するのが難しい部分もあり、診断の確定において生物学的な根拠を示すには至っていません。
ある種の認知症には遺伝子が関連していることが分かり、それぞれに応じた治療方針の確立に向けた取り組みが進んでいます。統合失調症においても手がかりを発見したいと思います。
これからAIなどの進化も加速するでしょう。しかし、精神科領域のすべてが置き換わることはありません。患者さんと接し、全人的に捉えることは医師の基本。そのための努力を続けたいと思います。
大阪医科大学総合医学講座神経精神医学教室
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