不条理には屈しない 患者を一人にはしない
「腎臓病の克服」を目指し、医療者、行政、市民の連携を促進するプラットフォームとして「NPO法人日本腎臓病協会」が発足した。柏原直樹理事長(川崎医科大学腎臓・高血圧内科学教授、日本腎臓学会理事長)は「疾患の多くは不条理なもの。患者さんと共に立ち向かいたい」と語る。
患者の声を集め連携の中心となる
―4月に協会設立。経緯を教えてください。
日本国内の透析患者は33万人に迫ると言われています(日本透析医学会「2016年末の慢性透析患者に関する集計」)。毎年、3万9000人のペースで増加しており、年間の医療費は推計でおよそ1兆6000億円にも達します。
腎臓病診療の質向上を図るべく、厚労省は2007年より「腎疾患対策検討会」を開催。その後の10年間の取り組みを踏まえて、今年7月、今後の腎疾患対策の方向性を示す報告書が公表されました。
報告書では「慢性腎臓病(CKD)の重症化予防の徹底とCKD患者のQОLの維持・向上」に向けた取り組みを整理。また、「2028年までに年間新規透析導入患者数を3万5000人以下に減少させる」という成果目標(KPI)を設定しました。
日本腎臓病協会が目指すのは、報告書の全体目標の先にある「腎臓病の克服」です。患者さんやご家族の声を拾い上げ、研究の推進や政策の立案などに生かす。そんな連携の中心となることを目指しています。
オールジャパン体制の構築へ
―どのような活動を。
当協会では大きく四つの事業に取り組んでいます。まずCKDの予防、早期発見、各地の診療連携体制の構築です。
血液検査や検尿で異常が見つかれば、ただちにかかりつけ医の受診へとつながる。そんなネットワークを各地に根付かせ、国内のどこでも、誰でも適切に腎臓病の医療を受けられる環境を整備します。
二つ目は「人材育成」です。2017年、関連学会によりCKDの療養指導に精通した医療職「腎臓病療養指導士」制度がスタート。対象は看護職、管理栄養士、薬剤師で、初年度は734人が認定されました。今後の運営は当協会が担います。
生活、栄養、服薬、療法選択の指導を実践でき、医療連携の橋渡しとなることが期待されます。認定制度の普及で保存療法の標準化を進めます。
三つ目は、腎臓分野におけるオールジャパン体制として「KRI-J(キドニー・ リサーチ・イニシアチブ・ ジャパン)」を立ち上げま した。
政策立案、研究、医薬品・機器・診断薬開発などの関係者が一堂に会するプラットフォームです。新規薬剤開発など、国内の腎臓病克服の活動が加速すれば、ドラッグラグの解消などにもつながるでしょう。
最後の一つは「患者さんやご家族との連携」を深めていくことです。透析治療は長期に及ぶほど、心不全、感染症などのリスクが増大します。また、遺伝的な要因で腎機能障害が生じる疾患など、患者さんが置かれている状況や悩みは多様です。
日本腎臓病協会では、全国の患者会や関係団体との定期的なミーティングを実施。積極的に意見を交換しています。
私たちが発信したいメッセージは「疾患という不条理と闘う患者さんを一人にしない」。患者さんに寄り添い、共に克服へと歩んでいくことが、日本腎臓病協会の大切な役割です。
腎臓病克服の願いを全国へ
―今後に向けた思いを聞かせてください。
当協会が主体となって多職種間、また患者さんとの連携を推進し、取り組みの裾野を広げる。これを全国的な活動として軌道に乗せ、次世代に引き継いでいくことが重要です。
伊能忠敬が、日本地図を作るために歩いて測量の旅に出発したのは55歳のときでした。
私自身も「腎臓病克服」への貢献を目指して全国を巡っています。ライフワークとして、力を注ぎたいと思っています。
川崎医科大学腎臓・高血圧内科学
岡山県倉敷市松島577
TEL:086-462-1111(代表)
http://www.kawasaki-jinzo.net/