【学会リポート】第77回 日本癌学会学術総会 「極めたるで!がん研究」参加者約5千人 議論活発に

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 9月27日から同29日までの3日間にわたり「第77回 日本癌学会学術総会」(森正樹学術会長)が大阪府立国際会議場・リーガロイヤルホテル大阪で開かれた。全国から医師ら4940人が集まった。

本庶 佑(京都大学高等研究院副院長・特別教授)講演
「PD-1阻害によるがんの免疫療法」

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 9月27日、開かれた特別シンポジウム「ここ10年の基礎医学と臨床医学の進歩」の中で、本庶佑・京都大学高等研究院副院長・特別教授が「PD-1阻害によるがんの免疫療法」と題して講演した。

「がんの終わり」の始まり

 がんは過去50年間増え続けていて、いまだに3大療法では、がんを抑えることができていない。世界では年間880万人が亡くなり、がんによる経済的損失は131兆円と試算される。

 しかし、PD-1抗体治療によってがん治療は大きな角を曲がった。それは「がんの終わり」の始まりであり、感染症に対するペニシリンの発見とも言うべき時期に来ているとも評された。

 ペニシリンですべての感染症がなくなったわけではないが、もし免疫療法が改良され、人間の治癒力を利用したがんの治療が進めば、今世紀中にがんはなくなる可能性があると考えている。

 FDA(米国食品医薬品局)が、2014年に切除不能などのメラノーマにニボルマブ(オプジーボ)を承認して以降、使用できるがんの種類は広がっている。特に、FDAが昨年、DNAに高度な変異があるがんに使用できるよう承認したことは大きい。2015年以降、ゲノムのシーケンスが進んでいることも背景にある。

 明らかになっているのは、がんはいずれも非常に高頻度のDNAの変異を蓄積するということ。つまり変異があるためにがんになり、がんになるとますます変異がたまるというわけだ。

 通常、抗がん剤などを投与する場合、正常細胞への影響を考え100%がん細胞を破壊することはできない。すると、やがて抵抗細胞が出てきて、次々に抗がん剤を変えても追いつかなくなる。一方、免疫療法は効き始めると膨大な種類のリンパ球がすべての変異を見つけるので、完治にもつながる。

 そもそも化学療法、放射線治療が免疫力に依存していることは、2010年に当講座の茶本健司准教授が発表している。がんに対して放射線治療などが効いているように見えるのは、実は免疫細胞がきちんと「後始末」をしている。免疫力が最終的にがんを治すとわれわれはみている。

副作用への対応が課題

 PD-1抗体療法は、将来的にはがん治療の第一選択肢になると考えている。特に、初期に使うほうが効果は大きい。しかしながら免疫療法は完成されたわけではない。有効率の向上が重要だ。

 臨床現場の課題として、がんの専門家が、免疫についてほとんど知らないこともあげられる。副作用の対応プロコトルも、不十分だ。現在、われわれは有効性のマーカーについて研究を進めている。

 楽観的に予測すれば、「PD-1」を含めた免疫療法は現段階ではマイナーな治療法だが、やがて拡大するだろう。将来的には最も副作用が少なく、患者さんに負担のない治療法として広く用いられるようになると考えている。

 がんは、将来的には、完全になくなる。あるいは一種の慢性疾患として扱われる程度になるのではないか。

 20世紀、人類は抗生物質の発見と獲得免疫で感染症を克服した。21世紀にはPD-1阻害などの免疫療法で、がんの克服という希望が見えてきたのではないかと考えている。

【特別企画】持続可能な最善のがん医療を実現するための医療費制度とは?

 9月27日には特別企画「持続可能な最善のがん医療を実現するための医療費制度とは?」が開かれた。

 中釡斉・日本癌学会理事長(国立がん研究センター理事長)、北川雄光・日本癌治療学会理事長(慶應義塾大学病院病院長)、南博信・日本臨床腫瘍学会理事長(神戸大学医学部腫瘍・血液内科教授)の3人が基調講演。座長は、森正樹学術会長が務めた。それぞれの講演要旨を紹介する。

中釡 斉・日本癌学会理事長

 2017年の「第三期がん対策推進基本計画」は「予防や早期発見」「がん医療の充実」「がんとの共生」の3本柱から成る。日本癌学会は三つの柱に対して、研究を通して貢献をしたい。

 がんの組織中にはがん細胞以外にもさまざまな種類の細胞が混在し、相互に作用している。細胞のネットワークへの理解が必要だ。がんゲノムの技術的革新も目覚ましい。

 PD-1抗体の臨床応用については従来の化学療法と比較して歴史的な治療効果を上げている。一方で、効かなかった方がどう層別されるのか、区別されるのかについては研究の余地があり、まだまだ解明されていない。バイオマーカーを利用することで奏効率が上がることもわかっている。

 分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬は薬価が高い。悪性新生物にかかる費用は1990年前後から増え、最近では3兆円にまで上昇している。医療費全体は20年間で15兆円から30数兆円に増加。ゲノムによるバイオマーカーで層別化することでむだな治療の回避をする必要がある。

 ゲノム医療に関しては、全国11カ所に中核拠点病院と100カ所の連携病院が指定された。ここで集められた情報をいかに国の財産として活用していくかが重要。効果など、個別化、効率化、最適化する医療の実現が目標だ。国民皆保険の中で遺伝子パネル検査も実用化される。データ構築が、創薬の開発コストを下げる可能性もある。

北川 雄光・日本癌治療学会理事長

 ゲノム医療は国内でスタート地点に立った。がん関連3学会は合同推進タスクフォースを2016年に立ち上げた。国民に対してゲノム医療がどう役立つのか、何がどこまでできるのか、あるいはできないのかといった情報を正しく伝えるためのワーキング・グループが組織されている。

 ゲノム医療の実現には多くの医療職種の協力や人材育成が必要で、そのための協調体制も大切。また、保険収載にあたってどのような課題があるのかを考えなければいけない。

 米国におけるゲノム医療は、FDA、メディケアにも承認をされており、執行する態勢が整っている。国内では、大学機関でパネル検査が運用されつつある。

 標準治療で得られた生存期間と、ゲノム医療に同定された薬剤で行った時の生存期間のベネフィットを評価するような柔軟な評価方法も、今後、必要ではないだろうか。また、薬物治療については治療効果が得られた段階で費用が生じる「成功報酬型」も一つの選択肢ではないかと思う。

 新医師臨床研修制度によって、がん治療を担う外科の若手医師が減っている。必ずしも大都市圏に集中しているわけではないが地域偏在がある。人材育成は今後の大きなテーマだ。

 高度で高額な医療機器を活用する専門技術を有する医療者を適切に評価してほしい。行政、企業を含めたオールジャパン体制で臨んでいきたい。

南 博信・日本臨床腫瘍学会理事長

 男性も女性も、がんの死亡者は数増加しているが、死亡率を見ると、低下している。要因は診断技術の進歩や薬剤の進歩が大きいと考えられる。ニボルマブについては年間の薬代だけで約3500万円かかる。11月からは1090万円にまで下げられる。コストについては国内全体で考えていくべき問題だ。

 日本臨床腫瘍学会は、横断的に薬物治療に携わるがん薬物療法専門医を育成している。数は伸びてはきているが、まだまだ少ない。地域分布にも偏りがある。2011年のデータではがん薬物療法専門医が一番少ない沖縄県と一番多い東京では、大きな開きがある。単純計算で100倍。人口で補正しても、23倍の開きがある。働きかけはしているが、学会の力だけでは足りない。医師の偏在を是正するような制度が必要ではないだろうか。

 薬剤承認においては、統計学的な優位だけで承認するのではなく、臨床的優位、成功評価も入れた方が良いのではないか。レギュラトリーサイエンスを日本で発展させる必要もある。

 QOLを鑑みた生存期間を考えていくべきだろう。効果の大きさと薬剤価格を反映させること。必要な患者には薬剤が届く体制をつくる必要があり、患者さんを置き去りにしてはいけないと考えている。

 その体制整備とコスト削減に、学会やがん薬物療法専門医が役立てばと考えている。不適切な医療の排除、予防医療によるコスト削減も考えていくべきではないだろうか。


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