正しいケアを広めて尊厳ある排泄を
小児から高齢者まで、あらゆる世代の「排泄(はいせつ)」をきちんとマネジメントして、尊厳を守りたい。その一心でサイト「みんなの排泄ケアネット」を立ち上げ、運営する佐賀大学医学部泌尿器科。県内外から注目を集める「排泄」に関する取り組みについて、野口満教授に聞いた。
―サイトを立ち上げた理由や背景は。
私たちの医局の役目だと思ったからです。排泄管理・ケアは、がんなどに比べて「命にかかわらないから」と後回しにされがちです。医学部や看護学部の授業でも排泄学の講義はありません。伝統的、経験的な管理やケアの方法が踏襲(とうしゅう)され、その方法が間違っていることもある、というのが現状なのです。
介護をする人、される人の多くが「排泄」に負担を感じています。ここまで多くの人が苦労し、自分が生活するうえでも避けては通れないことなのだから、正確な情報を必要とする人たちに伝えていきたい。それが、ウェブサイト「みんなの排泄ケアネット」を立ち上げた理由です。
「みんなの―」は、排泄に関する「知ってほしい情報」と「知っておくと便利な情報」を掲載。具体的な手法なども載せています。
今、登録している会員は全国に400人ほど。特に力を入れているのが会員限定の「自習室」ページです。テキスト学習、ビデオ学習、対話学習の三つがあります。特に使ってほしいのは対話学習。講演で録音したものを編集し、スライドをつけて動画にしています。
動画を見終わった後には、映像についての問題が出題され、選んだ選択肢の正誤、その理由などを説明。知識が身についたのかを確認できるようにしています。
まだまだアクセス数は伸びる余地があると思います。学ぶことによる知識の蓄積以外のメリットも検討することで、より活用していただけるサイトになればと考えているところです。
サイトでは、このほか佐賀県内のトイレの場所を掲載。トイレの中の写真も載せて、車いすでも入れる広さかどうか、便座に移動する際に無理がない高さかどうかも分かるようにしています。
また、オムツ購入の公的補助の詳細もアップ。市区町ごとにどのような支援が受けられるのかが、まったく異なります。参考にしてもらえたらと思っています。
他にもQ&Aコーナー、ダウンロードすればすぐに使える排泄日誌や問診票をアップしているページなどもあります。新しいコンテンツを定期的に発信し、正しい最新の情報を提供できるよう、工夫しています。
―他に力を入れている取り組みを教えてください。
医療従事者に向けた技能実習セミナーを年2回、佐賀県内で開いています。車いすからトイレへの体重移動(移乗)の方法をレクチャーしたり、オムツメーカーのスタッフを招いてオムツの選び方や正しい使用法を伝えたりしています。
セミナーの講師は医局の若い医師。講師を務めることで、本人の勉強にもなります。それぞれ、がんや感染症など専門領域はありますが、幅広い知識の定着に役立っていると感じていますね。
参加者は佐賀、長崎、福岡など九州の医師や看護師、薬剤師など排泄の分野に関わる医療従事者。介護職の人も多く含まれています。将来的には県外でも開催したいですね。
今年9月1日には、講義内容をまとめた、排泄ケアについてのテキスト「排尿管理のいろは」(全70ページ、定価2000円+税 ※ 10部以上まとめて購入の場合は半額)を500部作製しました。「排尿のしくみと排尿の異常」「排泄ケアとオムツ」「認知症と排泄ケア」など10項目に分けて解説。セミナーの参加者や介護施設に販売・配布しています。
今後目指すのは、このテキストのブラッシュアップです。在宅移行で、夜間の家族や介護施設職員による排泄管理が増えています。医療職以外にもわかりやすい内容にすることが必須でしょうね。
佐賀大学医学部泌尿器科
佐賀市鍋島5-1-1
TEL:0952-31-6511(代表)
http://www.urology.med.saga-u.ac.jp/