情報共有、連携のためのネットワークを結成
沖縄県内の泌尿器科医によって情報提供や連携を目的に結成された「うろゆい会」。なぜこのようなネットワークが必要だったのか。沖縄県の現状とあわせて、「うろゆい会」発起人である琉球大学の斎藤誠一教授に語ってもらった。
―沖縄県の泌尿器科の現状を教えてください。
沖縄県の泌尿器科は、私が赴任した10年前は腹腔鏡技術認定医が私を含め2人しかいませんでした。それが現在は大学で10人、他の病院で3人と県内で13人にまで増えました。
それでも沖縄の泌尿器科の現状には、まだまだ厳しいものがあります。
たとえば小児泌尿器科は他県であればこども病院が担うことができますが、沖縄県では大学病院が担うことになります。
また、沖縄で比較的多い女性の骨盤臓器脱も大学病院で対応するなど、扱う症例は非常に多岐にわたっています。
しかも、「重症になるとすべて大学病院に送られてくる」といっても過言ではない状況です。それでも認定医が育ってきたことで、琉球大学でも1日に複数の症例の手術を実施できるようになりました。
さらには骨盤臓器脱をメッシュを使って固定する「LSC(腹腔鏡下仙骨膣固定術)」や、前立腺がんに対する手術支援ロボット「ダビンチ」を使った前立腺全摘除手術なども導入しています。
―連携の必要性を感じた背景と取り組みを。
琉球大学がリーダーシップをとり県内の泌尿器科医が連携を図る...というのは理想なのですが、これがなかなかうまくいきません。歴史が浅いこともあって、県内の医師には他大学出身の方も多く、同門会のようなものが存在しないことも一因だと考えています。
そこで、2014年に県内の泌尿器科医が結束し、協力するための「うろゆい会」という集まりを立ち上げました。今のところ、年に1回程度ではありますが、会合を開いて、手術の件数やどういう症例を扱っているのか、入院患者に対する医師の数は十分に足りているのかといった情報を共有しています。
この会で顔を合わせて話すことで、どこの病院がどの症例が得意なのか、情報が集まって役割分担の方向性が見えるようになってきました。難しい症例があれば「われわれに紹介ください」と伝えることも可能です。もちろん大学ですから、医師の人数が足りなければ新しい専攻医の派遣を検討することもできます。
うろゆい会発足の少し前に「EBM研究会」も立ち上げており、今後も「新専門医制度」にあわせて新専門医の集まりも作る必要があると考えています。「うろゆい会」という、ある意味、母体ができたことで、スムーズにいくのではないかと感じています。
―今後の目標は。
実は、沖縄では検診が普及していないという根本的な問題があり、比較的根治できる前立腺がんであっても早期発見ができず、手遅れになるということが少なくありません。診断が難しい膀胱がんでは、医師の判断によって膀胱全摘、温存の結果が大きく異なるケースも出ています。
課題解決のため、まずは「うろゆい会」のネットワークをもっと確かなものとして、医師同士が情報を共有できるようにしたいと思っています。さらには、大学病院が担うべき疾患、市中病院に任せるべき疾患はそれぞれ何なのか検討し、役割分担を進めていければと考えています。
就任から10年。これからはきちんとした研究を残すことに力を入れたいと思います。若い医局員にも共同研究に積極的に参加するよう指導していますし、論文では結果も出ています。研究は諦めたら終わり。諦めない限り失敗はありません。退官まで5年半。ぜひ成し遂げたいですね。
琉球大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学講座
沖縄県中頭郡西原町上原207
TEL:098-895-3331(代表)
https://ryukyu-urology.jp