ネットワーク化で広がる精神科医療の可能性
医療が高度化し、制度や仕組みが変化していく中、精神科医療が置かれている状況は。「私たちが向きあうのは、患者である前に"人"。それを忘れてはいけない」。4月に院長となった村田昌彦氏は強調する。
―力を入れていることは。
依存性疾患、児童思春期、気分障害、認知症、強度行動障害、重症心身障害児(者)など精神疾患をオールラウンドに診療できる体制があります。
176床のコンパクトな組織だからこそ、職員間の意思疎通が円滑で、幅広い診療や柔軟な受け入れを可能にしていると思います。
2005年施行の「心神喪失者等医療観察法(医療観察法)」に基づき、重大な他害行為を行った精神疾患患者に対して手厚く専門的な医療を提供する医療観察法病棟が18床あります。国公立の指定入院医療機関に設置されているものです。
医療観察制度対象者の社会復帰を促進する社会復帰調整官をケアコーディネーターとして保健所、役所、訪問看護ステーションとの連携を構築しています。
当院を退院した後に、地域で必要な医療を確保していくために、入院段階から関係者がミーティングを重ねて患者さんの情報を共有しています。
当院には、医療観察法の原案づくりに関わった村上優・前院長をはじめ、西谷博則・看護部長、佐藤紳一・看護副部長、壁屋康洋・主任心理療法士らがいます。「患者の病状の改善と社会復帰」を目指す上で大きな原動力になっています。
―精神科医療の連携で大切なのは。
いかに「院外へネットワークを広げるか」という点だと思います。
今年度、直接的・間接的な他害行為や自傷行為などが高い頻度で発生する強度行動障害支援に取り組む機関が連携した自閉症・発達障害支援センター地域支援体制サポート事業「さくら ころころネット」が始まりました。
当院と三重県自閉症・発達障害支援センター「あさけ」(菰野町)、「れんげ」(大紀町)の3施設が協力し、医療的な観点から指導やアドバイスなどに取り組みます。
難治性統合失調症患者が地域で安心してクロザピン治療などを受けるための環境整備を目的とした「難治性精神疾患地域連携体制整備事業」では、肥前精神医療センター(佐賀県)との協働による取り組みが進んでいます。
薬の血中濃度を測定した安全な投与、副作用への対応など、ミーティングやメーリングリストを活用して情報を共有しています。
重度の精神疾患患者が地域社会の中で自分らしい生活を送るために、訪問型支援を推進する「ACT(包括的地域生活支援プログラム)」が各地で広がりを見せています。
当院でも保健所などと密にやり取りしながら、訪問看護や往診といった活動を続けています。
―どのような課題を感じていますか。
もっと議論を深めなければならないことの一つは災害時における精神科医療のあり方でしょう。
当院のDPAT(災害派遣精神医療チーム)と三重中央医療センター(津市)のDMAT(災害派遣医療チーム)は、定期的に大規模自然災害を想定した共同訓練を実施しています。
もし最大規模の南海トラフ地震が発生した場合、三重県の沿岸部は壊滅的な被害を受け、数万人規模の犠牲者が発生する可能性が指摘されています。当院も被災を免れることができず、すぐには救援が望めない状況になるかもしれません。
いつも気持ちが重くて笑顔を忘れてしまう。そんな患者さんが少しでも安らげる時間を過ごすことができればと、私たちは苦しみを共有し、どう支援できるかを考えます。
大事なのは、患者さんは「1人の人間」という当たり前のこと。それは有事の場合でも、忘れないようにしたいと思います。
独立行政法人国立病院機構 榊原病院
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