残された人生を安心して楽しめるように
高松港から官有船で約20分。白砂青松の小島にある同園は、全国に13ある国立ハンセン病療養所の一つ。設立から100余年の歴史を刻む中、入所者の高齢化も進む。ハンセン病医療一筋に歩み、昨年10月に園長に就任した岡野美子園長に現状と展望を伺った。
―入所者や医療の現状は。
現在入所者は56人、平均年齢は84歳。ハンセン病治療は全員が終え、臨床的には治癒という状況です。ただ末梢神経障害や視力障害など、特有の後遺症に対するケアが必要です。
医療の中心は一般と同様、高齢者医療です。しかし医師は定員に足りません。私は眼科医で、ほかに整形外科医長、形成外科医長、歯科医長と歯科医師が一人ずつ。あとは診療援助として月に数回、耳鼻科や泌尿器科、心療内科の先生が来られます。
内科と外科の常勤がおらず、特に困るのが一般内科。探してはいますが交通の便もあり、難航しています。高松市内の病院で専門的な治療を受けながら私たちでも対応している状況です。
普段の診察は1日に10数人程度。不自由な体ながらお元気に暮らす方が多く、寝たきりはほぼいません。病棟には今5人ほど入院していますが、体調不良や、ちょっと見守りが必要というケースですね。
島で医療を完結するのは難しいので、外の医療機関と提携しつつしっかり担っていきたいと思います。
―入所者の生活をどう支えていますか。
病棟と居住地域にあるセンターに看護師と介護士を配置。人員は比較的充足しており、丁寧な支援ができていると思います。入所者が老いる中、大事にしたいのは最後まで安心して楽しく過ごしていただくこと。お花見や夏祭りなど四季折々のイベントを開催したり、一緒に園外に買い物や散歩に出かけたりします。
そして、最期をどう看取(みと)るか。安らかに旅立ちを迎えてもらうことが使命ですので、勉強を続けています。私たちが診ているのは、入所者の生活そのもの。その人が何を喜びとしているか、一人ひとりと向き合って過ごしています。
―開かれた園を目指しているそうですね。
隔離、孤立といったイメージを払拭したい。人権教育の一環として多くの学校が見学に訪れますし、中には社会人研修も。医学講義もしますが、やはり皆さん入所者とのお話が一番心に残るようです。
瀬戸内国際芸術祭とも縁があります。島は会場の一つで、高松市の芸術祭ボランティアが日頃から子どもキャンプを企画したり、カフェを開いたり、広報誌を発行したりと積極的に活動してくれています。そのボランティアの力も借りながら専属の学芸員を中心に現在、社会交流会館という資料館の展示を整備中。来春に始まる芸術祭に合わせて開館予定です。
一方、園の将来構想は明確にはなっていません。全国の療養所は、外から施設誘致を進めたりもしていますが、島の場合は難しい。離島振興法の枠組みで考えていくことになるでしょう。高松市と話し合う中で、芸術祭を軸として、例えばアーティストの活動拠点にならないかなどの方法を模索しています。
今ここは恵まれた環境に見えますが、過去には国の隔離政策の中、多くの人権侵害もありました。園で人生を終える入所者の思いを知ってほしいですし、誤った歴史を知ることはすべての出発点です。ハンセン病は日本では終焉しましたが、他の病気でも差別のないよう、教訓にできるはずです。
入所者の話を聞ける年数は限られています。今、岡山大学の看護学生が「語り部」のような取り組みができないかと考えてくれていますので、ぜひ一緒に実現できたらと思います。ハンセン病の歴史や入所者の人生を過去のものにするのではなく、将来に生かしたい。それが私たちの願いです。
国立療養所大島青松園
高松市庵治町6034-1
TEL:087-871-3131
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/hansen/osima/