"患者中心ではない" その真の意味は?
「医療は特殊ではない」。今年創立70周年を迎えた練馬総合病院の経営が瀬戸際だった1991年、飯田修平氏は院長に指名された。突然のことだったが「やると決めたら徹底的に勉強した」。気づいたのは、病院も一般企業も基本は同じ。突き詰めるべきは「品質管理」だった。
―院長就任はまさに青天のへきれき。
外科のトップとして本格的なチームづくりに着手し始めた矢先のことでした。決心したら、グズグズせずに新しいことに取り組もうと思いました。
規模が大きくて医療の質も高い。そんな病院なら経営のヒントが得られるだろうと、さまざまな院長と会いました。それぞれ部分的にはいい点がありましたが、総合的にまねようと思える病院はありませんでした。それなら「自分で勉強するしかない」と開き直ったのです。
私が共感できたのは、一般企業の経営者が書いた本や、彼らの話でした。そうして行き当たったのが「品質管理」という視点。
外科医として追求してきた医療の質の向上、チーム医療の推進は、すなわち組織づくりであり、経営そのものであることが分かりました。母校の慶應義塾大学外科学教室でのトレーニングや、チーフレジデントとして病棟の運営を経験できたことが、今の病院経営に役立っています。経営は門外漢だと思っていたら、実は本質的な部分は変わらないのです。
医療は特徴はあるが、特殊ではありません。講演や講義の機会があれば、私はアンケートを実施します。「医療の質とは何か」「医療は特殊か」「品質管理とは」―。
回答を読むと私の考えに近い人が増えてきたと感じますし、「利益を求める一般企業と医療を同列には語れない」「命を預かるのだから他とは違う」という声もあります。でも、人の命を預かる職種は医療以外にもあるでしょう? なかなか面白いです。
― JSQC(日本品質管理学会)副会長も務めた。
病院の外で本音の議論を交わしていく中で、相談したり、協力し合えたりする仲間が増えていった。本気で品質管理を突き詰めようとした結果だと思います。
1996年から、当院では「MQI(Medical Quality Improvement)」と名付けた活動を継続。多職種によるチームが複数エントリーして経営理念の徹底と展開、意識改革、価値観の転換などに取り組み、TQМ(Total Quality Management:総合的質経営)の実践を目指しています。
例えば今年度の目標は「目的思考―業務の目的を理解する―」です。しかしテーマを理解して、常に「何のためにやっているのか」を意識するのは難しい。
だからこそMQIは業務の一環として位置付けています。課外活動ではありません。医師の参加は義務ではないが、エントリーするには「少なくとも1人の医師」がいることが条件。
そして、組織は「できるだけかき回す」ことが重要だと思います。いつも同じメンバーが集まるQC(Quality Control)活動を続けても、「うまくいって当たり前」ですから。
―理念に込めた意味を教えてください。
当院の経営理念は「職員が働きたい、働いて良かった。患者さんがかかりたい、かかって良かった。地域があって欲しい、あるので安心と言える医療を提供する」です。
順番に疑問をもつ方が多いのです。「なぜ患者が最初ではないのか?患者が中心ではないのか?」と。
職員は「自分中心」を心がけてほしい。それは自分を一番大事にという意味ではありません。組織の目的や患者の要望に沿った医療を提供する責任を、自分が中心となって果たす。そうして初めて患者が「良かった」と感じ、地域に貢献できる。だから「患者第一」とは掲げていないのです。
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