患者の最後の瞬間に"看取り"という安らぎを
2009年から2015年まで赤字が続いた帯山中央病院の再建を任された黒肱敏彦院長。長年、消化器外科医として肝胆膵のがんの治療に注力してきた院長が、運営の柱に選んだのは「看取(みと)り」だった。
―帯山中央病院に至るまでの歩みとこの病院の特徴を聞かせてください。
1981年に久留米大学の医学部を卒業して第一外科に入局。1997年に古賀病院に移り10年弱、数多くの外来、手術を経験しました。
48歳のとき、病院再建の道に。鹿児島県内の病院の再建や長崎の離島の病院の手術応援などをしてきました。この病院の理事長に、初めて誘われたのは6〜7年前。「メスを置いたら行きます」と伝えて、2016年、ここに移りました。
―「看取り」を病院運営の柱に据えた理由は。
まず一つは、私自身が数多くの看取る現場に立ち会ってきた経験があったからでしょう。肝胆膵のがんは、早期発見が難しく、手術したとしても、亡くなる人が多くいました。
その人、家族によって、最期はさまざまですが、そのたびに、人の死の迎え方について考えてきた。この病院の再建を任されたとき、団塊の世代が亡くなっていくここ20年で「看取り」の問題から目をそらすことはできないと思ったのです。
われわれは今まで生きてきた中で、最も多くの死者と対峙(たいじ)する時代に生きています。年間約200万人。この方たちを見送ることは、とても大事な仕事ではないでしょうか。
―看取りをする中で、難しいと感じる点は。
治療を継続するのかどうか、その判断は難しい場合もありますね。
エンドステージの患者さんに投薬や延命治療を施しても、本人にとってはつらい場合がある。本当に安心して最期を迎えてほしい。国の財政を考えても、本当に必要な医療なのかを考える必要があると思っています。
ただ、「少しでも可能性があるなら」という希望や、家族の「生きてほしい」という願いは理解できます。医師として、さまざまな選択肢を挙げつつ、最終的に患者さんやご家族の決断にゆだねています。
―在宅移行が進んでいます。自宅での看取りも増えていくのでしょうか。
例えば、病気になった人を家族が自宅でみると決めたとしましょう。精神的にも体力的にも負担がかかることが多々あり、周囲のサポートがないと、家族は介護を続けることはできません。それだけ、在宅は難しいのです。
当院は、来院が困難な方に対して、往診と訪問看護を提供。医療療養病床のうち1床はショートステイ用として、レスパイト入院にも対応しています。
現在ある地域包括ケア20床は、今後、25床にまで増やしていくつもりです。
―今後の展望は。
この地域内で開業している往診ができる医師をリストアップして、みんなで在宅医療に取り組みたいとも思っています。いろいろな診療科の医師がいることで、さまざまな病状、状態の人を診ることができる。そんな仕組みをつくっていきたいですね。
地域の患者さんがこの病院に信頼感を持って、訪れてくれるか。遠慮することなく、頼ってもらえる病院であるか。それを大切にしています。「夏バテしたので診てほしい、入院させてほしい」。そんなふうに、来てもらえる病院があっても、いいと思うのです。
そうやって来院する人の中に、自覚症状はないけれど命にかかわる大きな病気にかかっている人もいるでしょう。その病気を見つけ、治療もしくは、高度専門医療機関につなげていく。高度治療を終えたり、在宅へ戻ったりしたら、再び私たちが診る。そのためにも、体だけでなく心のケアまできちんとできるスタッフを養成することも目標です。
医療法人祐基会 帯山中央病院
熊本市中央区帯山4-5-18
TEL:096-382-6111(代表)
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