低侵襲治療を前進させる画像診断とIVR
CTやMRIなどの画像診断、さらにそれを用いて経皮的アプローチで治療を行うIVR(インターベンショナルラジオロジー)を専門とする放射線診断学。日進月歩の著しいこの分野のエキスパートが今年2月、神戸大学の初代教授に就任した。
―放射線医学分野が二つに分かれた経緯は。
放射線科は欧米ではメジャーで、放射線診断学と放射線治療(放射線腫瘍)学、さらに核医学に分かれます。一方で、伝統的に内科・外科が強い日本では、放射線科はまとめて一つという状況が長く続いていました。
しかし、大量の放射線を当てて治す治療科と、少量の放射線で診断したり、その技術を利用して低侵襲に治療したりする診断学分野は違うもの。二つを分けようという風潮が10数年前から広まり、昨年、ここの放射線医学も放射線診断学分野と腫瘍学分野に分かれました。
放射線診断は、がん診断の一つの柱である画像診断を担います。治療面では外科的治療、内科的治療、精神療法、放射線治療に新たに加わった手法を担う。それが、画像診断をもとにカテーテルなどで病変部を低侵襲に治療するIVRです。
われわれは画像診断とIVRの両方に強みを持つことが大きな特長。IVRは他科でも行われており、例えば頭は脳外科、心臓は循環器が扱いますが、それ以外の範囲は放射線科の担当です。すべての画像を放射線科が読影して、診断する。教室は人材豊富で、他の科ともスムーズに連携が取れています。
―今後、取り組みたいことは。
臨床、教育、研究のスキルを上げ、海外に発信する教室にしたい。楽しさや充足感を見いだせるよう、最初は積極的に導ければと思っています。
IVRは画像下治療ですので、画像診断ができない人がすべきではないというのが私の持論です。両方のエキスパートになるのは難しいので、IVRがしっかりできて診断のサポートができる人、あるいはその逆の人材を育てていきたいと考えています。
この大学に移ってきて印象的だったのは他科の医師から「IVRがないと手術できません」とはっきり言われたこと。術後の再発や出血時にはIVRで処置します。そのバックアップがないと怖くて手術できないと。非常に求められているのだと実感しました。
AIへの対応も必須です。放射線科医にとってAIは敵ではなく味方。昔からCAD(コンピューター支援検出診断)の研究が進んでおり、親和性は高いのです。
そこで今後は多次元画像の研究を進めます。3次元画像に時間軸が加わり動く4次元画像。複数の画像データを一元的に集約し、CT上に血管造影像を反映した融合画像などをつくることができます。これら大量の画像データの解析をAIに任せ、最終判断を放射線科医がする。そんな研究組織を来年には立ち上げたい。今は人材を集め、研究機関とやりとりしている段階です。
―兵庫県での放射線医療の現状は。
人材はまだまだ足りません。兵庫県は中小病院が多く、600床を超える規模は数えるほど。放射線科医が1人という病院もある。力が分散していては医療の高度化に対応しづらいので、センター化していく必要があるでしょう。
1施設に10人程度いるのが理想です。最終的な砦(とりで)は大学病院、それ以外はセンターで診るという形が構築できればと思います。
放射線科医はアメリカでは「ドクター・オブ・ドクター」と言われ、各診療科を支援する立場にあります。診断から治療までを担い、働き方は多様。読影室で「9時5時勤務」という選択や、IVR専門医として外科医のように働くことも可能です。QOLの高さを含め放射線科医の魅力を伝え、専攻する人を増やしたいですね。
神戸大学大学院医学研究科 内科系講座放射線診断学分野
神戸市中央区楠町7-5-2
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