急性期後の生活を見据えた医療を提供
国内最大の面積を持つ琵琶湖は豊かな恵みをもたらす一方で、周辺地域に特有の医療環境も生むことになった。県北東部の湖北医療圏に位置する長浜赤十字病院の楠井隆院長は、課題とどう向き合っているのか。
―どのような医療圏ですか。
長浜市、米原市の2市で構成し、人口は約15万7000人。2次医療圏の中では比較的小さい方でしょう。
東側が岐阜県、北側が福井県との県境。西側には琵琶湖があります。湖の周囲を琵琶湖線、湖西線、北陸線が走っていますが、本数は多くなく、他地域へのアクセス性に恵まれているとは言えません。
このような立地にありますから、地域内で医療を完結させるための取り組みが進んできました。長浜市では、当院と市立長浜病院が急性期医療の中心を担っています。
治療後の患者さんを受け入れる後方病院が不足していることから、当院から直接、自宅や療養型の介護施設に移っていただくケースが少なくありません。
そこで病院と地域の医師会の連携が深まったわけです。当院や開業医の先生方で患者さんの診療情報を共有するネットワークシステム「びわ湖あさがおネット」なども活用し、在宅患者さんへの医療やケアが途切れることのないよう支えています。この連携こそ当医療圏の伝統だと言えるかもしれません。
―在宅医療については。
10年ほど前から、在宅で高齢者を看取(みと)るケースが増加しています。とはいえ、日本では病院で亡くなる方がおよそ8割。つまり、ほとんどの方は看取りに慣れていないのです。
「終のすみか」であるはずの介護施設から、老衰だが「容態が悪化した」と救急搬送の要請を受けることもしばしば。心肺停止となってから当院に連絡が入ったこともありました。
救急搬送されれば、たとえ寿命を迎えていたとしても救急処置を施し、結果として病院で亡くなる。これは患者さんにとって本当に良いことなのだろうか?
そんな疑問を抱き続けていましたので、「高齢者の救急搬送と看取り」について、地域に理解を求めてきました。
厚生労働省の調査によると、約6割の人が「最期は自宅で迎えたい」と望んでいるそうです。家族や介護施設の職員に見守られながら。それが多くの方の本心なのだろうと思います。
当院では地域連携室が中心となって、定期的に介護施設に足を運んでいます。入所の際には、家族を交えて看取りについてきちんと話しておくこと。そうしたアドバイスをすることで、看取りへの意識を根付かせることに努めています。
また、地域内の医師が在宅での看取りに対する共通の認識を持てるよう、開業医の先生方と積極的に意見を交わしています。地道な積み重ねによって、少しずつ当医療圏での自宅や施設での看取りは増加傾向にあります。
―今後は。
超高齢社会に対する取り組みと同時に、急性期の中核病院として、がん、循環器疾患、救急など、急性期医療の強化も進めています。今年1月に、湖北医療圏では初めてとなる手術支援ロボット「ダビンチ」を導入。これまでに10例の手術を実施しました。
「在宅との距離が近い」という当院の特徴を生かした研修プログラムを用意するなど、教育面にも力を注いでいます。高齢の患者さんの「急性期後の生活」への理解を深めることができるのは、当院の強みだと思っています。
2025年問題、そしてその先にあるのは人口減少の時代です。医療機能の再編、再配分の議論が進む中、事業の縮小と収益の確保という課題に直面するのは私たち医療機関も例外ではありません。決して後ろ向きになるのではなく、乗り越えるためにどうするか。地域としっかり連携して考えたいと思います。
長浜赤十字病院
滋賀県長浜市宮前町14-7
TEL:0749-63-2111(代表)
https://www.nagahama.jrc.or.jp/