目を向けるべき災害はどこに迫っているのか?
未曽有の「もしも」に備えて、医療者は何を準備しておくべきか。長年にわたって国内外での救命活動に携わってきた山本保博院長に聞いた。
―救急医療と災害医療が柱です。
当院は東京都東部(墨田区、江東区、江戸川区)の地域救急医療センターの一つ。地域内の他の医療機関と連携して、搬送困難な患者さんの受け入れ先を調整する「東京ルール」に参画しています。
4カ所以上の医療機関に要請しても搬送先が決まらなかったり、30分程度が経過したりした患者さんが東京ルールの対象です。例えば食道静脈瘤(りゅう)の破裂などで起こる大量の吐血や、開放性骨折、アルコール依存症などの精神疾患、高齢者の外傷。疾患の種別によって対応できる医療機関が限られるケースも多々見られます。
そうした患者さんも含めて当院は年間8000台を超える救急車を受け入れており、応需件数は都内でも4〜5位。引き続き、地域の救急医療を守っていきたいと考えています。
都が指定する災害拠点病院であり、災害発生時には東京DMAT、日本DMAT、AMATの各チームを現地へ派遣。DMATカーも所有しています。
2020年に東京オリンピック、前年の2019年には日本でラグビーワールドカップも開かれます。
2013年にボストンマラソンで爆破テロ事件が起こったでしょう。海外ではフーリガン同士の大規模な衝突で100人近くが亡くなった事例があり、国内では花火大会で「群衆なだれ(Crowd avalanche)」による多数の死傷者が出たこともありました。私たちが目を向けなければならないのは、自然災害だけではないのです。
近年の災害の概念として「NBC災害」や「CBRNE災害」という言葉が用いられています。
化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)、爆発物(Explosive)の頭文字を組み合わせたものです。
テロで最も多いのは爆発物を用いたテロです。最初の爆発で群衆を混乱させ、野次馬が集まってきたところで本格的な2発目が襲う。こうした事態に、平時の訓練もなしに対応できるわけがありません。
当伯鳳会グループの主催で、墨田区や墨田区医師会、東京都、東京消防庁などの協力を得て2017年6月に「爆発災害」を想定した合同訓練も実施。いざというときに備えて、最大限の努力を続けたいと思います。
―国内外での救命活動の経験が生きているのですね。
長い間、忘れられないことがあります。1980年代にエチオピアで干害が起こり、医療チームの一員として北部のメケレを訪れました。そこに住む人々が、ある夜、集まって泣いていたのです。また誰かが亡くなったのかと思って近づいてみると、囲まれているのは生まれたばかりの元気な赤ちゃんでした。
通訳に「なぜ」と聞くと「こんなにつらい世の中になぜ生まれてきたのか」と嘆き悲しんでいるというのです。彼らは人が亡くなったときにも泣くということでしたが、ただ驚くばかりの経験でした。
世界中に、そして日本にも、「なぜこんな世に生まれたのか」と感じている人々がたくさんいるのではないかと思います。
地域包括ケアシステムの必要性がさけばれているように、これからはもっと助け合うことが必要になるでしょう。病院での治療を終えて家に帰すというよりも「地域に帰す」という感覚が強くなっていくといい。
救急医療も医療者だけでなく、バイスタンダー(現場に居合わせた人)から始まることが大切です。「誰か助けてくれませんか」と求められたときに、自信を持って手を挙げる人がたくさんいる。そんな世の中に向かってほしいと願っています。
医療法人伯鳳会 東京曳舟病院
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