"この子らは光" 障害児とその家族に優しい社会に
重症心身障害の発生原因はさまざまだ。先天的な染色体異常や出生時の仮死、生後の重症な疾病などによるが、いずれにしても、子どもたちは障害と離れて生きていくことはできない。「この子たちをもっと知ってほしい」と吉川清志施設長は言う。
―施設の特徴を。
「土佐希望の家」は重症心身障害児(者)のための入所・通所施設です。肢体不自由と重度の知的障害を伴った方々が入所をされています。重症心身障害児者の数はそんなに多くないだろうと思われるでしょうが、現在、当施設の入所者だけでも136人。最近では、NICUでの医療の進歩により障害なく救命されるケースが増加していますが、一方で重い障害を残す子も一定数みられます。
土佐希望の家のシンボルマークは二つのLIFE「生命」と「生活」、そしてLOVE「愛」をモチーフにしています。マークが示す通り、命を守る医療と生活を総合的に支えていくという点が他の病院にはない特徴でしょう。
私は今年4月にここへ施設長として赴任しましたが、その前は高知医療センターの病院長・小児科医としてNICUの子どもたちを診てきました。実はそのときに診てきた子たちも、ここにたくさん入所・通所されています。
私が病院で診察していた時間は、その子たちの人生のほんの短い期間に過ぎません。生活の一環として、ここに入所・通所している姿を見ることで新たな気づきもあり、本当に良かったと思っています。
―今後、力を入れていきたい取り組みはありますか。
一つはショートステイの充実です。施設に預けず、ご自宅で重症心身障害児者をみているご家族もたくさんいます。自宅での看護の負担を少しでも軽くし、ご家族にもご本人にも良い状態でいてほしい。その支援をしていきたいのです。
現在もショートステイをしていますが、必ずしもニーズにお応えできていない現状もあります。少しずつでも支援の拡大ができればと思っています。
障害者雇用の促進も考えています。施設で直接雇用し、例えば清掃やベッドメイキングなどの仕事をしてもらう。こういった施設だからこそ、積極的に障害者雇用の枠を増やしていけるのではと思っています。
学生実習やボランティアの受け入れにも力を入れていきたいですね。若い方、未知の方が来ることは入所者と職員、双方にとって良い刺激となってくれます。
高知大学医学部の1年生が、EME初期臨床医学体験として実習に来ます。学生に感想を聞いてみるといろんな声が上がります。「怖かった、何をしてよいかわからなかった」と正直な感想も。それはそうでしょう。何も知らないと怖いかもしれません。一方で「職員が入所者の考えをくみ取ろうとしている」「優しい雰囲気がある」と、職員の想いを感じてくれる言葉も聞くことができました。それはうれしかったですね。
学生のみなさんには重症心身障害児者の存在を知ってもらい、体験・体感してほしいと思っています。人の多様性、それぞれの生きざまを知ってもらう。そして医療の原点とは何かと、考えてほしいのです。
重症心身障害児は、私たちにいろいろなことを考えさせてくれます。にこにこと笑顔を向けてくれる姿に、私はいつも元気をもらうのです。
「この子らを世の光に」という言葉をご存知でしょうか。知的障害児の福祉に尽力された糸賀一雄先生の著書のタイトルです。「この子らに光を」、ではなく「この子らを光に」、というところに目を向けていただきたい。彼らに光を当てるのではなく、彼ら自身が光を放っているということに気付いていける、そんな優しい世の中になるよう願って止みません。そのために、私もここで頑張っていきたいと思っています。
社会福祉法人土佐希望の家 土佐希望の家 医療福祉センター
高知県南国市小籠107
TEL:088-863-2131(代表)
http://tosakibou.jp/