山口大学大学院医学系研究科 消化器・腫瘍外科学講座 永野 浩昭 教授

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当たり前の医療になれば市民も医療者も変わる

【ながの・ひろあき】 1986 岡山大学医学部卒業 大阪大学医学部附属病院第二外科入局 1994 米ハーバード大学ブリガム&ウィメンズ病院外科研究員 2010 大阪大学医学部附属病院消化器外科/移植医療部病院教授 2015 山口大学大学院医学系研究科消化器・腫瘍外科学教授

 肝がん治療の選択肢の一つに「移植」がある。山口大学医学部附属病院では、2016年冬、16年ぶりに生体肝移植が再開された。大阪大学医学部附属病院から移り、消化器・腫瘍外科学講座をけん引するのは永野浩昭教授だ。

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―肝がん患者の中で肝移植の適応となる人は。

 通常、がんの治療法選択のアルゴリズムは進行度によって分けられます。肝がんが他のがんと大きく違う点は、そのアルゴリズムが肝臓の障害度と進行度の2層になっているということ。肝がんの人には、ほぼ100%、肝硬変など肝機能の異常があるためベースとなる肝臓の状態が治療にも影響してくるのです。

 肝硬変は「チャイルド・ピュー分類」で3段階に分かれます。良い方からA、B、Cとすると、アメリカではBになればすぐに移植を検討する。移植のハードルが高く内科的治療も発展している日本では、Cになった段階で、移植または緩和になります。

 肝がんがある場合には、AやBでも移植の対象になります。ミラノ基準の「単発がんなら5センチ以内」「多発がんなら3センチ以下、3個まで」の範囲内ならば予後が各段に良いことがわかっています。

 肝移植は、もともと劇症肝炎や肝硬変を背景とする「肝不全」に対する治療です。その中に、がんでも適応になる人がいる、というのが正確な説明でしょう。

 これまで山口大学に紹介された10数人の患者さんのうち、肝がんがあった人はゼロ。私のこれまでの経験を振り返っても5分の1前後だったと思います。

―生体と脳死、それぞれの移植の利点と欠点は。

 生体移植のメリットは、手術日を事前に定めた「待機手術」ができるという点です。デメリットは、命をかけて臓器を提供するドナーが必要だということ。私たちの場合、ドナーの「自発意思」かを確認するために、事前に当院の精神科を受診し、第三者の評価を受けてもらっています。

 一方、脳死移植の最大のメリットは、ドナーの命を危険にさらさなくても良いこと。医療者からすると、手術や術後管理がしやすいことも大きな利点です。生体肝移植の場合、ドナーにも肝臓を残さなければならず、患者に移す肝臓も血管も小さい。高度な技術が必要です。

 反面、提供者が極めて少ないのがネックです。2017年の全国の臓器提供件数は112件。肝臓の移植待機者は、2018年7月末現在で325人いるのが現状です。

―山口大学での生体肝移植について。

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 2016年11月から今年7月末までに5例施行しました。患者側と提供者側にそれぞれ外科医4人。さらに看護師や麻酔科医が加わるチームで実施しています。現段階の手術時間は14〜17時間。習熟度が上がり、交代などがスムーズになるにつれ、もう少し短縮できる見込みです。

 大阪大学ではこれまで脳死、生体合わせておよそ250例実施してきました。取り出した肝臓を二つに分けて大人と子どもに移す「脳死分割肝移植」の経験もあります。

 脳死分割肝移植については、今年、日本肝移植研究会が初めてのガイドラインを策定。私もワーキンググループのメンバーとして参加しました。提供される臓器が少ないならば、二つに分ければどうか。より一層高い技術が必要ですが、助かる命を増やすための、選択肢の一つです。

 世界と比較して脳死移植が進まない理由は、医療保険制度、宗教観、さまざまな違いがあるのでしょう。

 ただ、大阪では脳死移植が少しずつ浸透し、家族が脳死状態になったら「もういいです」と言うケースが増えてきました。当たり前の医療になると市民の感覚も、そして医療者も変わってくる。山口では脳死移植は実施していませんが、生体肝移植が再開されました。今後、少しずつ変化が見られるかもしれません。

山口大学大学院医学系研究科 消化器・腫瘍外科学講座
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://www.yamadai-gesurgery.jp/


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