患者主導の治療を支える信頼関係と小さな"刺激"
およそ40年にわたり「沖縄県の生活習慣病」と向き合ってきた髙江洲良一理事長。心がけているのは「患者さんの生活の背景まで見て、少しの"刺激"を加えてあげること」と語る。
―沖縄県の現状は。
私が医師になったばかりの40年ほど前、動脈硬化は加齢が因子となって起こるものがほとんどで、「高齢者の病気」という印象が強かった。
しかし、近年では比較的若くして動脈硬化を発症する患者さんが増加傾向にあります。食べ過ぎや高塩分食といった食習慣が、危険因子である脂質異常症や高血圧の大きな要因になっているのです。
高血圧や脂質異常症、糖尿病は自覚症状が乏しく、患者さん自身も病気であるという認識がないことが多いのです。軽視してそのまま放っておくと動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる症状を引き起こしかねません。「発症してから治療を始めるのでは遅い」ことを患者さんに理解してもらうのが、生活習慣病の治療の第一歩なのです。
―治療において大事なのはどのような点ですか。
生活習慣病の治療で大事な点は三つです。まず一つ目は、高血圧や脂質異常症、糖尿病が「障害」であると認識させること。動脈硬化を進行させないための食事や服薬といった「自己管理」を、患者さん自身が意識することが大切です。
二つ目は「全身を診る」こと。生活習慣病で通院している患者さんには定期的な人間ドックや、2年に1度は大腸検査を受けるように指導し、それらの結果を治療に生かします。
そして三つ目は、治療を中断することなく「生涯管理」をすること。生活習慣病は体質遺伝子が関与している病気なので、「治す」のではなく「コントロール」して上手に付き合っていくことが重要です。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病の人の場合、1日7㌘以下の塩分摂取が推奨されています。例えば屋外での仕事に従事している場合は、日中室内で仕事をしている人よりも多く汗をかく。その汗に1L当たり約4㌘の塩分が含まれているとして、1日7gの塩分摂取では足りないことになります。
患者さんのこれまでの歩みをすべて聞き取ることは難しいですが、診察ではじっくりと患者さんからヒアリングし、その人に合った生活指導を心がけています。
―訪問診療ではどのようなことを。
寝たきりの人ばかりではなく、外来に通う患者さんの家も訪れます。実はそれだけで気が引き締まり、生活習慣病の改善につながることもあるのです。
患者さんの生活に少しの「刺激」を与え、自分で病気をコントロールしていただくためのお手伝いをさせてもらう。それが私の仕事だと考えています。
患者さんの訴えにすべて応えようとすると、1度の訪問診療ではとても時間が足りません。しかし、一方的に診療方針を決定することは、患者さんの不安にもつながると思います。
訪問診療では、患者さんが思っていることを最初にすべて吐き出してもらいます。特に大事だと思える点をピックアップして優先的に診るのです。重要なのは患者さんとの信頼関係。それに尽きると思います。
私が医学生のころよりも医師の数は増えている。でも、医師不足は解消されない。その理由は自分の専門を「決めすぎている」からではないでしょうか。どの診療科であっても医師であることに変わりはありません。目の前に患者さんがいれば、自分で診る。それが医療の基本だと思います。
沖縄の方言に「ちゃーがんじゅう」という言葉があります。「ちゃー」は「いつも」、「がんじゅう」は「頑丈、健康」を意味します。この地域の人びとが「ちゃーがんじゅう」に暮らしていくお手伝いをこれからも続けていきます。
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