医療と法律問題58

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九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

 前々回と同じ、フォンタン術後の意識障害の事例です。本件の先天性心疾患は大型心室中隔欠損で、術前は中隔形成+僧帽弁形成術が予定されていましたが、開胸して心臓内部の形態を確認したところ、中隔形成術は困難と考えられ、フォンタン手術の方針に変更されたようです。当時、3歳でした。

 術翌日まではICUでの観察が行われていますが、2日目に一般病棟に移り、3日目に呼吸状態が悪化、気管内挿管の状態でICUに戻りました。5日目の脳波はほぼ平坦、頭部CTで広範な低吸収域が見られました。その後、意識を回復することなくほぼ植物状態となり、カルテには、「術後呼吸不全による低酸素脳症後遺症」と記載されています。

 患者側は、術後呼吸管理等の過失を主張して裁判を起こしましたが、病院側は、呼吸管理と脳機能障害との因果関係を争いました。一般病棟に移ってからの酸素飽和度の推移は正常値より低めではあるけれども低酸素脳症を起こすほどのものではない、術後3日目の朝に呼吸状態が悪化した時点では速やかに気管内挿管を行っており呼吸は停止していない、患児の脳機能障害の原因となった低酸素脳症は、患児の先天性心疾患、術中の体外循環装置による非生理的循環動態、手術時において投与される多量かつ多種類の薬剤の影響等が複雑に関与したなんらかの機序によって生じた可能性が考えられるが、今日の医療においてはその原因を解明することはできない、というのが病院側の主張でした。カルテの「低酸素脳症後遺症」という記載は、脳機能障害の原因が低酸素であることまで意味するものではないし、「術後呼吸不全による」という記載も、脳障害の原因となるほどまでに呼吸状態が悪化したことまで意味するものではないのだそうです。普通の日本語の使い方としては、なかなか理解し難いものがあります。

 一審判決は、脳機能障害の原因は不明という前提で、呼吸状態が悪化してICUに戻って以降の脳浮腫治療が不十分であったという過失を認め、少額の慰謝料を認容しました。

 全面敗訴ではなかったものの、ご両親が納得されるはずもなく、控訴審で鑑定を申し立てました。

 鑑定人は、術後の呼吸状態悪化の機序について、患者側が主張していた肺高血圧クリーゼが関与していることを認めました。しかし、鑑定人が脳障害の主たる原因として挙げたのは、「肺動脈盲端部に貯留した空気による空気塞栓あるいは同部位で形成された血栓による脳塞栓」という、患者側も病院側もまったく想定していないものでした。鑑定人は、このような機序による脳障害は予測できないとして病院の責任に否定的だったのですが、執刀医はいたくプライドを傷つけられたようで、この鑑定を、「エビデンスを欠いた単なるストーリー」と厳しく批判しました。

 結局、副次的にではあれ、肺高血圧クリーゼの関与を鑑定が認めたこと、その徴候は一般病棟に移った日の夜から翌日未明にかけて明らかになっていることなどから、高裁が和解を勧告、一審認容金額の約4倍の和解金で解決することとなりました。

 3年前に始まった医療事故調査制度の対象は、いまのところ死亡事案だけですが、本件のような事件を思い出すと、重大な後遺症事案も医療事故の対象に含めるべきだと強く感じます。

九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1-10-2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
TEL:092-641-2007


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