"断らない救急"実現へ 新病院で課題解決に挑む
移転計画が動き出してから10年。奈良県総合医療センターは今年5月1日、新病院での診療を開始した。
―ハード面、ソフト面の変化を聞かせてください。
大規模災害時も医療が継続できるよう免震構造で、水道、ガス、電気といったインフラも止まることのない設計です。
建物の延べ床面積は約6.7万㎡。旧病院の2倍に増えました。
許可病床数は従来より110床多い540床。現在は450床で運用していますが、スタッフの増員ができ次第、随時増やしていく予定です。
1階には救命救急センターがスペース広く配置されています。屋上にはヘリポートを設け、ドクターヘリの運用を開始。設備では、地下1階に放射線治療室を設置し、がん細胞への照射の正確性を高めた最新の機器を導入しました。
診療体制面では、緩和ケア科と乳腺外科、口腔外科、頭頸部外科を新設。いずれも手狭だった旧病院での懸案解決を実現しました。
―新病院で目指す医療は。
計画にあたって、第一の問題となっていたのが救命救急医療の充実でした。
2015年の奈良県内の救急搬送時間は平均44.3分。47都道府県中44位で、救急医療体制の改善は待ったなしの状態だったのです。
当院には旧病院時代から救命救急センターがあり、三次救急は同センターで、二次救急は救急外来で受け入れてきました。新病院となってER型救急体制へと変更。重症度にかかわらず救命救急センターへと搬送してもらい、振り分ける形にすることで、搬送時間の短縮を図りました。
また救命救急センターには小児救急科も新設しています。
新病院開院から6月末までのドクターヘリの受け入れ件数は11件。ドクターヘリの運航は2年前に南奈良総合医療センターでスタートし、今年2月に奈良県立医大、次いで当院が開始しました。三つの拠点による全県広域救急システムが出来上がったと思っています。
救急受け入れ数は、新病院が開業した5月には455件を数えました。2017年度の実績は5080件でしたが、今年度はさらに上回る見込みです。
―運営面で心掛けていることは何でしょう。
コミュニケーションを重視しています。対話がないとチーム医療は成り立たない。組織においていろいろな人の意見を聞くことが大事で、その声にどう応えていくかが病院運営で問われていると思います。
いろいろな職種間での情報交換の活発化、職員全体での課題の共有、各現場からの提案を聞きサポートする体制づくり、その三つがテーマです。
それと同時に院長が何を考えているのかを職員に伝え、双方向でのコミュニケーションを図っていきたいと考えています。
―地域で果たす役割は。
北和、奈良県全域を対象に高度急性期医療を提供することです。
そのために新しいコンセプトを持った病院をつくり、最新の医療機器を整備し、高度急性期医療が名実ともにできるよう人材の確保も行ってきました。
ただ、当センターだけで実現できることではありません。今後は近隣の医療機関と一層緊密な関係をつくり、病病連携、病診連携で奈良県の医療に貢献していきたいと思っています。
同時に、将来奈良県の医療を支える人材の育成が必要です。当センターには「教育研修センター」があり、手術や看護技術、救命処置のシュミレーションモデルなどが整えられています。
今後、奈良県内の医療従事者に施設を開放する計画もあります。優れた医療人を育成することで、患者さんと地域に貢献していければと思います。
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