SOSをくみ取り継続的な支援につなげる
ニーズはあるが、「思春期相談窓口」は全国的にも多くはない。三重県立こころの医療センター内にあるメンタルヘルスに悩む若者のための相談窓口「ユース・メンタルサポートセンター(YMSC)MIE」の現状について、森川将行院長に聞いた。
―YMSCの現状を。
若者のための電話相談窓口で話を聞き、医療的介入が必要だと思われる方を当院での受診につなげます。ひきこもり、リストカットなどの自傷行為、「自分は精神疾患ではないか」といった多様な相談に専属の看護師や精神保健福祉士が丁寧に応対します。
電話で相談に応じたり、情報を提供したりすることで解決する割合が多く、病院での受診に至るのは全体の10数%です。
全体の82%が一般家庭からの相談で、そのうち本人の電話が13%、母親からが62%です。家庭を守り、子どもの成長をずっと見てきたという思いが強いのでしょう。「私の育て方が悪かったのではないか」と責任を感じ、自分自身を追い込んでしまう母親が多いように感じますね。
―診療の特徴を教えてください。
当院の常勤医師は15人。精神科救急(スーパー救急)、急性期、認知症、アルコール依存症、療養病棟での対応など、幅広い役割を担います。限られた医師数と診察時間の中で、患者さんの話を聞きもらさないためにはチーム医療が欠かせません。
YMSCでは受診につながった後も、看護師や精神保健福祉士が患者さんの相談に応じて支援します。医師がすぐに診療できない時に緊急事態が発生しても、初期段階から継続的に彼らが対応してくれるのでとても助かっています。
―思春期特有の精神疾患に男女差はありますか。
発達障害の中でも注意欠如・多動性障害(AD/HD)の場合、授業中に立ち歩いたり衝動的な行動をとったりする男の子は目立つために、「AD/HDは男の子に多い」と言われていた時期もありました。
しかし最近では男女差はそれほど大きくなく、広汎性発達障害(PDD)についてもそれほど開きはないのではないかと言われています。
女の子の場合はもの忘れなどの「不注意」の症状が多くみられます。不注意は衝動性に比べて目立たないためAD/HDとして認識されずに見落とされてしまう場合が多く、本人の努力でなんとかやり過ごしてきたものの、社会に出てから仕事や人間関係、家庭での家事に困難を感じて受診する人が目立ちます。
YMSCでも、受診者のピークはまず思春期の15歳ごろ、そして24〜26歳で再び受診者が増加する傾向にあります。
―課題はどのような点でしょうか。
全国共通の課題と言えますが、思春期相談のニーズは高いにもかかわらず、相談窓口の数はまだ不十分だと思われます。SOSを発している人たちの声を一人でも多くすくい上げ、必要な支援につなげるためには、社会全体で相談窓口の数を増やすことが望まれます。
「発達障害だから病院に行きなさい」と上司に言われて受診する人もいます。しかし、発達障害とは誰もがもつ「個性」の一つです。この個性を「良くないもの」と決めつけてしまう社会の偏見や、なんでも病気のせいにするような風潮をなくしたいと、市民向けの講演会などを通して正しい知識の啓発にも努めています。
―大事にしていることは。
患者さんの話を聞き、困りごとを整理するのが私たちの仕事です。SOSを発する人にできるだけ早く助けの手を差し伸べて継続的な支援や社会的制度につなげること、必要に応じて治療することが重要です。「ここに来て良かった」と思ってもらえる診療を心がけています。
三重県立こころの医療センター
津市城山1-12-1
TEL:059-235-2125(代表)
http://www.pref.mie.lg.jp/ KOKOROHP/HP/