社会復帰を後押し 進化する認知行動療法
臨床を中心に精神疾患のある患者のサポート・社会復帰支援に注力する池淵恵美主任教授。医局の特徴と、副大会長を務める「第24回SST全国経験交流ワークショップin東京」(7月28日・29日開催)について聞いた。
―医局の特徴を。
将来開業や病院勤務を希望する医局員が多く、特に臨床に力を入れています。
診療の主な対象は、一般的に罹患(りかん)率の高いうつ病などの気分障害や統合失調症の患者さんです。外来治療で効果がなかなか得られない、また副作用が原因で十分な薬物療法ができない場合は、入院による治療を実施します。
幻聴や妄想が改善しない統合失調症の患者さんに対する、クロザリルなどを用いた薬物療法や、手術室で行う修正型電気けいれん療法、うつ病に対して脳の一部に磁場をつくり、弱い電流を流して大脳の活性化を図る低侵襲の経頭蓋磁気刺激療法(TMS)などを実施します。
デイケアでは、社会復帰を目指す患者さんが社会生活を送る上で必要な能力とコミュニケーション力を身に付け、自信を回復するためのリハビリテーションを行っています。
帝京大学医学部附属病院の診療の軸は「がん診療」と「救急医療」。1978年に開設した「救命医療センター(現:救命救急センター)」では、東京都内に26ある救命救急センターの中で2番目に多い搬送患者を受け入れています。
救急科を受診する患者さんのうち、うつ病や自殺企図など、何らかの精神的な問題のある人がおよそ1割います。入院中、不眠、徘徊(はいかい)、うつなどの対応が困難な場合に、当医局のリエゾンチームが介入。薬の指示などをコンサルテーションし、本疾患の治療が円滑に進むように各病棟のスタッフをサポートしています。
―研究面は。
二つの研究グループが活動しています。「総合病院精神医学研究グループ」では、薬理学、脳画像学、遺伝学などの知見を基盤にして、総合病院の強みを生かした精神疾患へのアプローチや、リエゾンコンサルテーションに関する研究を行っています。
私が属する「心理社会的治療グループ」の調査・研究の中心は、「デイケアを利用した統合失調症の方がどの程度リカバリーしているのか」。
デイケアを利用する仲間が仕事を始めたり、「社会復帰できますよ」と医師に言われたりしたことで希望が持てたこと。自分に合う薬が見つかること...。
リカバリーを促進する要因はさまざまですが、人との出会いが大きな影響を及ぼしているように思います。収集したデータを整理・解析して、今後の治療やより良い支援に役立てていきたいと思います。
―他には。
7月28日(土)・29日(日)に帝京平成大学池袋キャンパスで開催される「第24回SST全国経験交流ワークショップin東京」で副大会長を務めます。
SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)とは1970年代に開発された認知行動療法です。
本人の目標に沿ったロールプレイやフィードバックなどを通して、人とどうやって付き合うのか、自分の気持ちをいかに表現するのか、選択肢が複数あって迷ったときにどう決定したらいいのかといった、社会生活で欠かせない能力を身に付ける練習をします。
当日は、初心者から上級者、認定講師を目指す方までを対象に多様な分科会・ワークショップを準備しています。
病院のデイケアや学校、療育施設、企業などで導入され、講習を経た幅広い職種の方がSSTを実施しています。歴史ある認知行動療法ですが、新しい考えや技術を取り入れることで進化しています。今のSSTをぜひ多くの人に体感していただき、理解を深めてほしいですね。
帝京大学医学部精神神経科学講座
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