いよいよ基盤はできた 地域に大きく還元を
教授就任から10年。「先代が築き上げたものとの融合に注力した10年だった」と語る上野修一教授。次に目指すのは、精神科医療の資源を「地域に還元」することだという。
―この10年を振り返って。
初代の柿本泰男先生は、精神科医療のすべてに共通する手法論としての神経科学を、2代目の田邉敬貴教授は認知症や老年期疾患には欠かせない症候学を含む神経心理学を中心に、医局を発展させてきました。
先代が築いてきた歴史に児童思春期精神学を融合させ、さらに教室を発展させることに力を注いできました。この10年で、ようやく基盤を作り上げることができました。
これからは学会や一般の方への啓発などの活動、国際的な連携研究といった学外のことにも目を向けて、愛媛県の精神科医療をどのように方向づけるかを考えていきたいと思います。
―医局で力を入れていることは。
内科が分からなければ治療はできないし、小児科を知らないと子どもの心を理解することはできない。診療科を問わず必要な基礎的な力です。
当医局では、ローテートで来た初期臨床研修医にも、精神医療に関する理解を深めてもらい、精神神経科を専攻せずとも、ここで学んだ知識を生涯にわたって生かしてもらえるよう「全般的な医学教育」に力を入れています。
伊予市中山町における認知症の疫学調査は、開始から21年を迎えました。継続的にデータを蓄積する中で、認知症の予防法について遺伝学的視点からも解析を進めています。
医局内の分子遺伝学の研究では、治療前後での薬物に対するバイオマーカーの数値の変化や、作用部位を調べる研究が盛んです。
年に数回、国内外から講師を招いて実施する精神科医療の勉強会に参加する機会も設けています。今後は専門医の取得に必須である医療安全や、感染症といった分野の勉強会についても充実させていきたいと考えています。
―地域における課題は。
愛媛県で精神科病床を持つ総合病院は当院を含めて二つだけ。そのため精神疾患と身体的疾患の合併症を持つ方をケアする役割が求められています。
修正型電気けいれん療法など麻酔をかけて行う身体療法ができるのも総合病院であるからこそです。他科と十分に連携をとりながら難治性疾患の治療にも取り組んでいます。
愛媛県では2002年に精神科救急医療情報センターが設置されましたが、救急医療システムが運用されているのは中予地域のみ。24時間365日対応の精神科救急システムについては確立には至っていません。行政とも協働して一日も早くシステムを構築していくことが今後の課題です。
緩和ケアについては、ホスピスのある病院に医師を派遣し、また同門の先生とも協力して、精神科の立場から終末期をサポートしています。
医療の進歩や発展で発達障害が早期に発見されるようになりました。また高齢化により認知症の人の割合が増加するなど、精神科医療は時代の流れとともに多様化。精神科を受診する患者さんの数は年々増え、愛媛県内の精神科医不足はますます深刻な状況になりつつあります。
研究や臨床ももちろん大事ですが、大学病院としては後進を育てて輩出し、県内の精神科医療を支えていく責務があります。幸いにも、臨床研修担当医の頑張りで入局者は年々増加しています。
患者さんのこれまでの歩みや置かれた状況、想いをくみ取った医療ができること。精神科医療を専攻する中で自分の得意分野を持つこと。この二つを兼ね備えた精神科医がこの医局から一人でも多く育ってくれたらうれしいですね。若い医師の成長を見て、私も共に成長したいと思います。
愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学
愛媛県東温市志津川
TEL:089-964-5111(代表)
https://www.m.ehime-u.ac.jp/ school/neuropsychiatry/