変わりゆく精神科医の役割 地域で暮らす支援を
85周年を迎えた土佐病院。長い歴史を持ちながらも4年前に建て替えられた院内はとてもきれいで、明るい雰囲気。正面入口の横には、シンボルツリーの大きなプラタナスの樹があり、患者や来訪者を優しく迎えている。
―土佐病院の特徴を教えてください。
一つ目は、精神科救急を行っているということです。現在、スーパー救急病棟と呼ばれる精神科救急入院料病棟がある病院は四国内に3カ所。高知県内では当院だけになります。
また、入院する患者さんの傾向を見ると統合失調症や躁うつ病の方の割合が高くなっています。高齢者の方だけでなく、比較的若い世代の患者さんが多いというのも、他の精神科と違う点だと言えるでしょう。
―85周年を迎えられました。長い歴史の中で何か変化はありましたか。
昔と変わってきたなと思うことはやはりあります。
以前は精神科といえば、一度入院してしまうと退院までの期間が長い、なかなか退院できない、といったイメージがあり、実際そうでした。
しかし最近では、むしろ長期入院が少なくなってきています。当院でも、1年以内に93%が退院しているという状況です。それは、医学の進歩で良い薬が開発されたということもありますが、大きな理由は軽症の患者さんが増えたことによるものでしょう。
近年、精神科や精神疾患に関する理解が少しずつ広がっています。「早期に治療を開始すれば、早く治る」ということが知られるようになり、軽症の段階で病院を訪れる人が増えているのです。
今、地域移行が進んでいます。急性期には入院でしっかりと治療し、状態が落ち着いたら在宅へと戻る。患者さんの治療の場が病院だけではなくなり、精神科病院に求められる役割も少しずつ変わってきているのを感じます。
―今後、力を入れていきたいことは何でしょうか。
精神疾患というと認知症など高齢者に目を向けられることが多いですが、実は若い患者さんも多くいます。当院にも若い方がたくさん入院しています。彼ら、彼女らのサポートに、もっと力を入れていきたいと考えています。
患者さんたちにはまず、退院後の生活、仕事や家庭をどうしていくかという問題があります。実際、仕事を探そうと思っても、治療のためにブランクが長かったり、あるいは社会経験がまったくなかったりすると雇用先を見つけることは簡単ではありません。
患者さんのご家族の「自分たちが亡くなった後、この子はどうなるのでしょうか」という声も多く聞いてきました。そこで、この病院に、そういった人々の受け皿を作れないかと考えるようになりました。
作業所か一般就労として雇えるような組織を立ち上げ、利用者または雇用された人が最低限、生活ができる収益が出る仕組みを作れないかと思っているのです。
今はまだ動き始めたばかりですので、実体と言えるものはありませんが、少しずつ計画を進めているところです。初めての試みですので、いろいろと問題もあります。例えば、食品の製造をしたとして、その製品の販路はどうするか。販路が確保されて製品が売れなければ、当然、運営はしていけません。地域の方々の理解、協力なども必要になってくるでしょう。
患者のみなさんには最終的に地域で誇りを持って暮らしていってほしい。仕事を持ち、税金を納めたり、家庭を持ったり、地域の一員としてさまざまな人と関わって生きていってほしいと願っています。
そして、そのお手伝いをしていくことも、これからは精神科の役割になってくるでしょう。この計画がうまく機能し、患者さんとご家族、そして地域のお役に立てるよう、力を尽くしていきたいと思っています。
医療法人須藤会 土佐病院
高知市新本町2-10-24
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