増加する「肥満症」"欲求"とどう闘うか
高血圧、糖尿病、心臓病などさまざまな疾患の原因となる肥満症。日本人の3人に1人はBMIの数値が25を超える「肥満」だといわれている。増加する肥満症患者を救うことはできるのか。
―肥満症の治療はどのように進めるのでしょうか。
食事と運動、この二つを軸に体脂肪を減らします。肥満症の患者さんは「食べ過ぎてしまう」「カロリーが高い食事が好き」という方が多い。できるだけ食事を楽しみながら、治療を続けられる工夫をしています。
例えば、テレビや雑誌で人気の「低糖質ダイエット」。主に炭水化物を控える方法です。効果が実感しやすく、かなりの患者さんが取り入れています。しかしお米だけ抜いて揚げ物や太りやすい食材ばかりを食べてしまい、逆に体脂肪が増える人や栄養のバランスを崩す人もいる。そうならないよう個人の普段の食事を3日分ほど聞いて、続けられるメニューを組みます。
肥満症が他の疾患と大きく違うのは、患者さんのやる気に大きく左右されることです。食欲を抑える薬があるとはいえ、好きなものが食べられないストレスは計り知れません。そこで大分大学では患者さんのモチベーションを上げる取り組みをしています。
1日に4回体重を量って体重の増減をわかりやすくする、栄養士からカロリーや栄養素について教える機会をつくって自分の食事に興味を持ってもらうなど、自主的にダイエットできている患者さんが多いですね。
ただ、糖質制限だけではうまく痩せません。脂肪が落ちると、同時に筋肉も減ります。脂肪から糖を生成し、筋肉を分解してアミノ酸に作り替える「糖新生」が起こるからです。筋肉が減りすぎると、今度は脂肪を燃焼させることができなくなってしまう。そこで筋肉量を維持する筋力トレーニングが必要です。運動をすると少量の食事でもおいしく感じられ、満足感にもつながります。
食事を計画する管理栄養士、運動療法をする理学療法士、ドクター、そして患者が協力しあいチームとなって、治療ができるのです。
―肥満症の外科手術について教えてください。
「スリーブ状胃切除手術」が主流ですね。胃の一部を切り取って、縦長の筒状にして容量を減らす。少量の食事でも満腹になるため、施術から1カ月以内に大幅な減量が見込めます。
2014年から、BMIの数値が35以上の高度肥満症患者で、高血圧症、糖尿病、脂質異常症のうち一つ以上を合併している場合のみ、健康保険が適用されることになりました。手術を受ける人の数は年々増えていて、全国で年間100人ほどが胃切除手術を受けています。大分大学でも手術待ちの患者が常にいるような状態です。
減量に大きな効果がある胃切除ですが、リバウンドのリスクがないわけではありません。胃は伸縮性のある臓器なので、切除しても無理矢理詰め込めば以前と同じくらいの大きさになってしまいます。患者さんの欲求との戦いであることは変わりません。外科と内科の連携も欠かせませんね。
―7月、「第26回 西日本肥満研究会」を主催されます。
今回は「手術」に焦点を当てた学会です。専門医だけでなく栄養士や他の科の医師にも来てもらい、肥満に悩む患者に提言できればと思います。身近な問題である肥満への理解を深めてほしいですね。
注目は、長崎大学とのトークセッションです。腹腔鏡手術の件数が豊富な長崎大学と、保険適用が開始する以前から胃切除を実施していた大分大学、それぞれが今までの症例を紹介します。
肥満症は症状やリバウンドなど個人の差が激しいため、多くのケースを知っておくことが必要です。患者さんが安心して手術を受けられるよう、これからも医師間での情報共有の機会を設けていく考えです。
大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座
大分県由布市挾間町医大ケ丘1-1
TEL:097-549-4411(代表)
https://www.med.oita-u.ac.jp/ naika1/