チーム医療で患者を支える 糖尿病治療の最前線
福岡大学の小児科には糖尿病内科がある。子どもたちへの治療は、小児科内の他分野の専門家や福岡大学特有のスポーツ科学部と連携して進められているのが特徴だ。小児糖尿病の現状や患者・家族への向き合い方について、廣瀬伸一主任教授に話を聞いた。
―小児糖尿病について教えてください。
1型と2型、二つの種類があります。一つは自分の免疫細胞が誤ってインスリンを作っている膵島を攻撃することで発症する1型。もう一つは体内のインスリンが不足する2型で、どちらも増加傾向にあります。
理由には食生活の変化が挙げられます。世界的に見ると14歳以下の1型糖尿病の患者数1位はノルウェー、2位はサルデーニャ島。北欧圏に多く見られ、国内でも乳製品を多く取るようになったこと、糖質やカロリーの高い食事が増えたことなどが、体質を変化させていると考えられています。
2型も食生活の欧米化が原因だとされていて、ヨーロッパ系よりもアジア系の人種に多く見られます。日本では1992年から健診時の尿検査が義務化され、そのタイミングで病気が発見される患者の数が増えました。
今のところ1型を完治させる有効な手段は見つかっていません。一生付き合っていかなくてはならない病気で血糖をコントロールすることが何より重要です。
2型には生活習慣が大きく関わっているので、毎日の血糖値を把握しながら肥満や食生活の改善に取り組むことが重要です。
―2型糖尿病の治療で、福岡大学病院ならではの試みは。
2型糖尿病の患者のために当大学スポーツ科学部と協力して、運動療法を実施しています。糖尿病は薬を服用すれば治る、という病気ではありません。特に2型は食事の内容を変え、いかに運動を継続できるかにかかっています。
スポーツ科学部は乳酸が体内で増えない程度のペースで運動をする「ニコニコペース」を提唱しています。運動を無理なく続けることで、体質を改善するのです。
一人ひとりに適した運動量は違うので専門家にプログラムを作ってもらっています。大学の中にはフィットネスセンターがあり、子どもから大人まで、インストラクターの指導を受けながら汗を流しています。
―小児糖尿病患者に対して気をつけていることは。
患者や家族に、病気についてしっかりと理解してもらうことですね。
糖尿病にかかると、血糖値を計る、インスリンを注射する、食事の内容や摂取する時間を配慮するなど、これまでの生活リズムが大きく変わります。基本的に家で治療を進めるので、しっかりと実行できないと命に関わってしまう。そのため1週間から2週間、教育入院の期間を設けて指導しています。
大人が注射をしたり、血糖値を計測したりすることも多く、家族の理解が一層重要になってきます。
福岡大学では小児科・糖尿病内科に在籍する糖尿病療養指導士やチャイルドライフスペシャリスト、臨床心理士などが親と患者をサポートしています。
15、16歳ごろからは一般の内科に移行します。加齢に伴ってリスクが高まる動脈硬化や腎不全といった病気があるためです。根治治療がない1型は医師と患者の付き合いも長くなります。急に主治医が変わり患者が混乱することがないよう、移行前に内科の先生に小児科まで来てもらい、顔合わせをして状態を把握しています。
―今後の展望について教えてください。
今まで以上にスポーツ科学部と連携を強くしていきたいですね。カンファレンスにも加わってもらい、運動の専門家という観点から意見を述べてもらいながら、より良い治療を模索していきたいと思います。学術的な面で言えば、成人で検証中の膵島移植治療を確立し、小児科に取り入れたいと考えています。
福岡大学医学部小児科
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