県内2カ所目 周産期の砦 2施設共同運営で実現
「埼玉県で2番目となる総合周産期医療拠点の誕生は悲願だった」と語る安藤昭彦・さいたま赤十字病院院長。2017年、さいたま新都心駅前に移転開院した同院は、隣接する県立小児医療センターと共同で「総合周産期母子医療センター」の運営を開始した。
―経緯は。
新築移転の目的は、埼玉県で2カ所目となる「総合周産期母子医療センター」の開設でした。背景には、埼玉県の周産期医療の厳しい現状があります。
人口10万人当たりの医師数で見た時に埼玉県は全国で一番医師が少ない。総合周産期医療拠点は人口100万人に対して1カ所必要だと言われているのに、埼玉県はそれまでおよそ700万人に対して1カ所しかなかったわけです。
その結果、年間700〜800件ある県内の母体搬送に対応しきれず、うち100件ほどは東京都など県外に搬送されていました。
そんな時、ちょうど同じ時期に病院の建て替えのタイミングを迎えていた県立小児医療センターと当院に対して県知事から共同運営の提案があり、隣接して両院を建てることになったのです。
―埼玉県の周産期医療の現状と総合周産期母子医療センターの強みは。
医師1人で対応する産科クリニックが閉鎖する傾向が見られます。一方で、何人もの産科の医師を集めて年間2000〜3000件の出産に対応する大きな産院が増えています。たった1人の医師が年間300件くらいの出産に対応するのはさすがに負荷がかかりますからね。
ただ、ハイリスクの妊産婦に関しては、大きな産院でも対応できないため、われわれのような総合周産期母子医療センターで受け入れています。
総合周産期母子医療センターは当院の産科と県立小児医療センターの新生児科が緊密に連携。カンファレンスを開き、胎児に異常がある場合などには、産科から小児科に状況を伝えておきます。そうして準備を整えて誕生を待つことで、生まれた直後から治療に入ることができます。
これによって質の高い医療が可能になっていると思います。別々の施設の産科と新生児科でスムーズに情報共有できるのは、やはり2施設で一つの総合周産期母子医療センターを運営しているからこそですね。
新築移転にあたって、助産師をおよそ40人増員しました。ハイリスク分娩も含めて、年間1000件近くの出産に対応しています。県外搬送をなくすまでには至りませんが、減少には貢献できているのではないかと思います。
―救急においても変化があったそうですね。
埼玉県では、小児救急への対応も課題でした。
両院が移転する前、県立小児医療センターが小児救急患者を受け入れていましたが、マンパワー的に厳しかった。当院は、もともと救命救急センターとして3次救急を担っていましたので、その部分でも協力することにしたのです。
移転後、高度救命救急センターとなりました。移転の少し前にドクターカーを配備したことが大きかったですね。要請が多く、当初は月100件ほどを想定していた出動件数は現在月200件近く。1日5〜6件の計算です。
救急車受け入れ件数は年約9000件で、そのうち約2000件が高度救命救急センターに運ばれています。救急に対するニーズの高まりを感じています。同時に、救急、周産期に加えて、がん診療にも一層力を入れていきたいと思っています。
新築移転によって求められる役割がより明確になりました。当院は今、完全紹介制へと移行して高度急性期医療に特化し、病病・病診連携を進めています。今後は、規模や機能が似ている病院との機能分担を模索しながら、地域全体の医療提供体制を考えていく必要があるでしょうね。
さいたま赤十字病院
さいたま市中央区新都心1-5
TEL:048-852-1111(代表)
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