"断らない医療"をどう実現してきたのか?
24時間365日、「断らない医療」を実践し、難度の高い症例と年間1万台を超える救急車を受け入れる川崎幸病院。国内1位の大動脈疾患手術件数を持つ「川崎大動脈センター」をつくり上げた山本晋センター長が今年、院長に就任した。
―「川崎大動脈センター」とは。
大動脈瘤(りゅう)・大動脈解離の治療に特化した国内唯一の大動脈疾患医療センターです。センター長に就任した2003年から、質、手術件数とも世界トップを目指した組織づくりを進めてきました。2017年の手術件数は837件。過去14年間の延べ患者数はおよそ2万1000人、手術件数は7000件を超えています。
2012年の新築移転に伴い、専用フロアにICU8室とHCU8室を含む58床の大動脈疾患専用病棟、ハイブリッド手術室1室を含む専用手術室3室を備えました。大動脈手術に精通した専門医師や専属の看護師、臨床工学技士、理学療法士、栄養士、薬剤師が一丸となって、最高レベルの診療を目指しています。
緊急手術を要する急性大動脈疾患患者の受け入れのために、ドクターカーを配備。紹介元の病院に当センターの医師を乗せて向かい、処置を施しながら当院に搬送することで、早期に治療を開始できる体制を整えています。
開胸・開腹手術とステントグラフト治療の両方に対応できるのも強みで、複合手術を必要としたり、高齢者だったりする方の高難度の手術にも対応しています。
当院での診療は医師だけでなく、看護師、臨床工学技士などさまざまな職種のスタッフがそろって初めて成り立ちます。センター専属の理学療法士を10人そろえるなど、医師以外のスタッフの充実にも力を注いでいます。
―救急でも「断らない」を実現していますね。
ERには内科医1人、外科医1人のほか、研修医が常駐。CT、MRI、脳血管撮影など、さまざまな検査機器をそろえ、速やかな診断を可能にし、各診療科の医師との連携、手術への移行もスムーズにできる体制です。
多職種の分業と連携を円滑にするため、救急のコーディネートをする「EMT科」を設置。救急救命士が、救急隊からの患者受け入れ要請を受けたり、ERでの処置などを介助したりするほか、当院救急車での搬送も担当。地域の救急隊とのパイプ役としても、その力を発揮しています。
医師の不在や手術室が埋まっているなどの事情で、受け入れが難しいタイミングは確かにあります。しかし、スタッフ全員が意識を共有することで、「断らない」を徹底することができています。
―院長に就任されて、今の思いは。
院長になったからといって、新しく病院運営を学ぶといったことはありません。川崎大動脈センターをつくり、これまで育ててきた方法、つまり組織マネジメントだったり、医師への教育だったりを他の診療科にも応用するだけです。そうやって各診療科がトップレベルになれば、病院そのもののレベルも引き上げられますから。
川崎大動脈センターでは、手術の一つひとつの工程を細かく分け、それを順番に教えていきます。手術は頭の中で理解することが始まりです。一つの手順を覚えたら、実際にやらせてみて、できたら次の手順。そうやって全部の工程を覚えさせる教育システムが充実しているので、20代であっても、手術ができるようになるのです。
今後、医師の教育に関しては「手術のできるベテラン医師が、手術のやり方をきちんと若手医師に教える」ということを、全診療科に浸透させていきたい。組織として高い技術と知識を共有し、継承していくことの大切さを伝えていくつもりです。
社会医療法人財団石心会 川崎幸病院
神奈川県川崎市幸区大宮町31-27
TEL:044-544-4611(代表)
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