医師になってよかったと実感できる後押しを
昨年6月、滋賀医科大学の男女共同参画推進室が内閣府「女性のチャレンジ賞特別部門賞」を受賞。臨床・研究の両面でライフイベントとキャリアアップの両立を支える、ユニークな「仕掛け」が評価された。
―主な取り組みは。
入学志願者に占める女性の割合は年々大きくなっています。医学科の場合、卒業生の4割近くが女性。その後、妊娠や育児などで現場を離れ、そのまま復帰しない人が一定数います。意欲があっても力を発揮する場がないのであれば社会的な損失です。
本学では、2009年に「男女共同参画推進基本計画(マスタープラン)」策定、2011年に「男女共同参画推進室」を設置。2015年には、子育てサポート企業を認定する「くるみんマーク」を県内の大学として初めて取得しました。現在、尾松万里子学長補佐、コーディネーターのブラドリー美恵子特定業務主任が中心となり、多様な取り組みを進めています。
例えば2016年11月、「女性医師支援のためのスキルズアッププログラム」を開始。「復帰したいが不安がある」という方を本学で受け入れます。希望する診療科で診療に従事しつつ新しい知識とスキルを身に付け、再び医療現場に復帰してもらうプログラムです。
現場を離れた理由や期間は問わず、本学の卒業生でない方も利用可能です。勤務時間は月24時間以内で平日のみ。妊娠・出産、転居、子育て後の10年ぶりの復帰と、プログラム利用者の理由はさまざま。新たな資格を取得した方もいます。
先日、4人目の利用者を受け入れたばかりです。もともとは麻酔科医で、復帰後は異なる専門性を持ちたいと乳腺・一般外科での勉強をスタートさせました。
女性の比率が高い麻酔科医に関しては滋賀県と協働で「麻酔科医ブラッシュアッププログラム」を実施しています。麻酔科医不足がさけばれる中、本学での研修を経て地域の医療機関に赴任してもらいます。派遣先の評価も高いようです。
―研究者向けの支援は。
育児や介護中の男女の研究者を対象に、実験やデータ解析などをサポートする研究支援員を配置。支援員は主に男女共同参画推進室が運営する「三方よし人材バンク」に登録している本学の学生です。
支援を受ける研究者、先端的な研究に携わることができる学生、研究成果が還元される社会。まさに「三方よし」を目指した仕組みです。2013年に開始以降、支援員はのべ100人を超えました。
また2013年に「滋賀医科大学女性研究者賞」を創設し、女性研究者によるすぐれた研究活動を表彰しています。2016年度の受賞者である大野聖子特任講師はこの4月、国立循環器病研究センターの分子生物学部部長に就任。ご活躍は本当にうれしいですね。
臨床や研究の場で生き生きと働く女性の姿は男性にも刺激を与えるでしょう。学生たちにとっても、身近なロールモデルがいることで自分の将来像がイメージでき、モチベーションも向上すると思います。
かつて20%ほどだった女性教員の離職率は10%を切っており、なお下降しています。女性教員の比率についても2012年度は15.8%、2017年度には25.3%に達しました。20%を超える国立大学は数えるほどしかありません。
人口増を続けていた滋賀県は数年前にいよいよ人口減へと転じました。高齢化社会に向かう中、各地域に医師や看護師がいて、十分な医療を提供できる体制が必要です。地域と医療は車の両輪。住民がいてこそ医療は成り立ち、医療が崩壊すれば人々は出ていく。すでに、日本で起こっている現実です。
医療現場とのネットワークが途切れ復帰の方法や相談先が分からない、そんな人材を発掘し、ぜひ地域で能力を発揮してほしい。なにより「医師になってよかった」と感じながら働けるよう、後押しできる大学でありたいと思います。
国立大学法人 滋賀医科大学
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