女性医師の働き方改革 現場のリアルな声を聞く
昨年、久留米大学の超音波診断センターに着任した黒松亮子教授。肝がんの治療と超音波診断が専門で、あるときには自身の経験を後輩に語り、あるときは後輩たちの意見をヒアリング。女性医師の働く環境を改善しようと奔走する。
―これまでの歩みを。
久留米大学医学部の学生だったころ、患者さんの全身を診る医師になりたいと考えていました。消化器内科を選んだのは、その思いがかなえられるのではないかと漠然と思ったから。入局後、肝がんの患者さんの肝臓に電極を刺し、ラジオ波で腫瘍を焼く「ラジオ波焼灼(しゃく)術」など、内科でありながら外科的な治療にも携わることができる点に魅力を感じ、夢中になっていきました。
ラジオ波焼灼術で使用する電極の挿入の際は、他の組織を傷つけないようにエコーで位置を確認しながら進めます。そうやって長年エコーを使ってきた経験があったことから、2017年1月、「超音波診断センター」の教授に就きました。
大学病院で働き続けることを選んだのは、最新の技術や治療法に、いち早く触れられるからです。腫瘍マーカーの研究に携わっていたこともあります。世に出る前の、検討段階にある治療法に関われることがおもしろいですね。
―教授となって1年半近く。楽しさややりがいは。
一つは超音波診断センターの統括を任されていることです。内科や外科の垣根を越えて、病院全体の医療に関わることができます。責任と同時にやりがいも感じる仕事です。
もう一つは「教授」という肩書きがついたことで、周囲から期待される役割が変わったと感じています。積極的に協力してくれる人も多く、ありがたいと思いますね。
―久留米大学医学部の女性教授の数は。
全部で4人います。女性特有のライフイベントも一因だと思いますが、そもそも大学には女性医師が少ない。今は「働き方改革」で「短時間勤務制度」や「早帰り」を推奨するようになっていますが、私たちの時代はそうではありませんでした。
大学を離れた女性医師の多くは、他の病院で医師として働いています。つまり、医師を辞めたくなったのではなく、育児と研究を両立できる環境がなかったから。もしかしたら、本当に追究したい研究テーマに出会う前だったということも、あるのかもしれません。
―女性医師のために取り組んでいることは。
2016年から医局や関連病院で働く女性医師を対象とした「消化器内科の会」を開いています。
全員で、「あの時はこれが嫌だった」「こういった部分がやりづらかった」など意見を言い合います。この会を開催して、大学病院を辞めていった人の中にも「本当は続けたかった」と思っている人がいると分かりました。
産休や育休を取った女性からは「1年休んでしまうと新しい技術や治療法についていけない。その不安で辞めてしまった」との声も挙がっています。復帰後に「勘」を取り戻してもらうプログラムはありますが、カンファレンスや学会に参加できない人の場合は知識を得る手段がなかなかありません。
もし、1週間のうちに数時間だけでも最新の治療や研究に携われるシステムを構築できたら、不安を解消できるかもしれない。復職したくてもできない状況を改善するために動き出しています。
―今後の展望について聞かせてください。
「日本消化器病学会」の九州支部には女性医師の会があり、現在、私が委員長を務めています。
年2回開く例会のうち1回、それぞれの病院や大学で女性医師の働き方に対して、どのような取り組みをしているのか、ヒアリングする機会を設け、お互いに参考にしています。もしかしたら消化器内科特有の「やりづらさ」「続けにくさ」もあるかもしれません。この科に合ったキャリア支援を模索中です。
久留米大学病院
福岡県久留米市旭町67
TEL:0942-35-3311(代表)
https://www.hosp.kurume-u.ac.jp/