社会や時代の要請に応じるための道筋を
奈良県民の生命を脳神経外科疾患から守る「ディフェンスライン」として機能する奈良県立医科大学脳神経外科。4代目教授として運営を担いつつ、二つの学会を同時進行で準備してきた中瀬裕之教授に、職務への思いと展望を聞いた。
―強みは。
当科の手術件数は年間700件以上。最も多いのは脳腫瘍で、26ある関連病院から送られるケースを含め、複雑な症例が多いのが特徴です。手術と放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療で臨んでいます。
力を入れているのは、てんかん外科、脊髄外科、小児の分野。てんかんに関しては、初代の堀浩先生の時代から機能的脳神経外科に取り組んできた歴史があり、難治性の外科治療を積極的に行っています。24時間脳波を取る設備が必要で手術も複雑な分、あまり一般病院では扱わないため、われわれの責務は大きい。
同じく、水頭症などの小児脳外科疾患に関しても、関西の治療拠点として中心的な役割を担っています。脊髄外科は、長年培ってきた神経学的診断に加え、最先端の画像診断技術でより低侵襲な手術に進化。ひと昔前に比べ、成績は劇的に改善されました。
さらに神経モニタリングに注力していることも、大きな特長。術中に脳から手足まで電気を流すことで神経が正常かを見極められるので、安全対策の一つとして非常に有効です。技師や麻酔科とのコラボレーションでかなり発展しており、各地を講演して回る技師もいます。関連病院や全国の医療機関にも広まっているところです。
―学会の会長も立て続けに務められますね。
「第33回日本脊髄外科学会」を6月14・15日、奈良市内で開きます。テーマは「社会が求める脊髄外科」。今、脊髄外科は何を求められ、どう対応すべきかを踏まえ、併存疾患がある高齢者に対する治療や低侵襲の手術などに関するシンポジウムを予定しています。
シンポジウムの一つ「手術支援」は、「職人の技と道具」をテーマに先日開催した「第27回脳神経外科手術と機器学会」の流れを引き継いでいます。事業体会員であるメーカーの社員が医師と一緒に発表するのが特長で、最先端の機器に触れられ今後の方向性も分かるユニークなプログラムです。
多様な切り口から掘り下げ、社会に還元する道を考える。今回の学会も、そんな思いで臨みたいと考えています。
―これからの目標は。
治療開始までにかかった時間が予後や後遺症の程度を左右する脳卒中などの治療は、これまで民間病院が担当することが多かったのですが、昨年10月、ようやく当大学附属病院にも脳卒中センターができました。
これで、発症から数時間以内に必要な血栓溶解療法(t-PA治療)など、超急性期にしっかり対応できる体制が整いました。今後は「まひ」などの障害をいかに少なくしていくかが課題です。
このセンターもそうですが、私の仕事は体制づくりだと思っています。若い人が報われるような仕組みを構築したい。現在も、手術の実績に応じて医局に入るインセンティブを医局員に配分することでモチベーションアップにつなげています。今後は、さらに頑張りが認められる枠組みを考えていきたいのです。
脳神経外科の魅力は、「難しさ」です。入局者の多くは、大げさに言えば、戦国時代の武将・山中鹿之助のように「我に七難八苦を与えよ」という覚悟を持ってこの医局に入り、臨床、研究、教育に奮闘しています。
しかし、いつまでも、その頑張りに甘えていては、医局、そして脳神経外科医療の発展はない。医局員の「自己犠牲」に頼らずとも質の高い医療を提供し続けることができる体制づくりを模索したいと思っています。
奈良県立医科大学 脳神経外科
奈良県橿原市四条町840
TEL:0744-22-3051(代表)
http://naraidai-neuro.jp/