先天性難聴分野をけん引 頭頸部がんにも注力
【かたおか・ゆうこ】 1998 岡山大学医学部卒業 2017 同大学院医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学講師
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座は、先天性難聴の分野で全国をけん引するリーダー的存在。新生児聴覚スクリーニングの取り組みに力を入れている。
―地域での役割を。
假谷伸准教授(以下、假谷准教授) 当講座の特徴は先天性難聴に力を入れていることです。1946年〜1974年に在任した第4代の高原滋夫名誉教授の時代からその伝統を受け継いでいます。
―先天性難聴の現状は。
片岡祐子講師(以下、片岡講師) 「両側難聴」の発生する割合は高く、全出生児の1000人に1人程度です。音声を使った言語の獲得には臨界期があり、1歳から3歳ごろまでです。
そのため、難聴を放っておくと言葉の発達の遅れにつながり、これに伴って学習能力の低下やコミュニケーションの障害などさまざまな問題が起こることが知られています。難聴を早期に発見し、介入することで続発する障害を予防、軽減することが可能です。
岡山県は2001年に新生児聴覚スクリーニングモデル事業を始め、現在では県内出生児の約90%が県の事業としてスクリーニングを受けています。音を聞かせた際の脳波の波形で難聴の有無をスクリーニングする簡易検査で、通常生後3日以内に産科施設で実施されます。結果が「要再検査」の場合は退院までに再度検査。それによって正常な反応がない場合は「要精密検査」で検査機関に紹介されます。
スクリーニングを受けた児と受けていない児を比較すると、生後6カ月以内に療育を開始できる確率はスクリーニング受検児の方が20.2倍に上昇しました。
岡山県では、高原名誉教授の尽力もあり「難聴幼児通園施設(現:福祉型児童発達支援センター)岡山かなりや学園」という難聴児のための通園施設を1969年に全国で初めて設置。難聴とわかった場合の療育面での体制などがしっかりと構築されています。
―課題は。
片岡講師 先進国の多くは新生児スクリーニングが義務化され、公費負担です。しかし日本の場合は義務化ではなく、しかも検査費用の補助がある市区町村は12.9%(2016年度)というのが実情です。
要精密検査児への介入は医療や療育など多職種、多施設が関わるため、情報が把握されずに離脱するケースもあります。そのような事態が起こらないようにするため、関係機関や自治体での対象児の情報共有が重要です。
また、先天性難聴の数%ですが方法によっては難聴があるにもかかわらずスクリーニングをパスしてしまうケースもあります。また出生時には正常でもその後進行する「遅発性難聴」もあるので、1歳6カ月、3歳健診などで診ていくことも重要です。
学会は、スクリーニング検査の実施の拡大や、費用の公費負担などを各方面に働きかける努力をし続けていますが、全国の自治体全体でスクリーニング検査を実現するのはなかなか難しいというのが現状です。
先天性難聴児の精神面を支えることも大切です。お子さんが難聴と判明した時、両親はパニックになってしまうことがあります。心のサポートはそこから始まります。当科では医師だけではなく看護師、言語聴覚士などが連携して患者さんを支えていきます。
―新たな取り組みなど。
假谷准教授 2012年に頭頸部がんセンターを設立。頭頸部の腫瘍の治療に力を入れています。センター化されているのは中四国では当大学のみです。
頭頸部がんの場合、鼻や口を治療したあとのハンディキャップをどう補っていくのかが大きな課題となります。当センターでは形成外科、血液・腫瘍内科、放射線科、口腔外科(歯科)など他科のプロフェッショナルと一緒に治療に当たるのが大きな特徴です。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
http://www.okayama-u.ac.jp/ user/jibika-1/