若手医師が学びやすい新専門医制度に
4月にスタートした新専門医制度。専攻医が東京に集中するなど、今後の課題が残る中、大学は新制度をどう受け止めているのだろうか。熊本大学医学部附属病院の内科専門医研修プログラム統括責任者である向山政志教授に話を聞いた。
―新専門医制度が始まりました。
専門医制度の新しい仕組みができたことは、専門医を標準化する意味で良かったと思います。
国内、また国際的に見ても、学会が乱立していますし、専門医においても統一された基準が明確ではない。それぞれの学会が決めた基準ですから専門医のレベルも学会のレベルによってまちまち。そうなると、専門医の意味は何だろうということになりかねない。
日本専門医機構(以下、機構)が、専門医の基準を標準化して、それを明確にすることでわれわれ医師も専門医を標榜できる。それが他の医師との差別化となり、ひいては医師の待遇や評価につながっていけば良いと思います。
―熊大の専攻医採用結果はいかがでしたか。
本学基幹プログラム18領域への応募登録者は、この10年間で最多の95人となりました。多くの研修医が熊大を選んでくれたことを大変うれしく思います。
従来は専門医の取得と関係なく「3年間は別の大学や病院で研修をしたい」と考え、初期研修をした大学以外の大学や病院を選択する医師もいたと思います。しかし、新専門医制度では「3年の間に専攻を決めなさい」というわけですからあまり冒険はできない。
また、内科専門医の場合は取得のため「29の症例についてのレポートを提出」しなければならない。そのうちの14症例は初期臨床研修で扱った症例を使用できることになりました。この場合は初期臨床研修の指導医の許可が必要。そうすると、初期研修と専攻医の研修が連続的であることが望ましいと考えられました。
そのような背景や新制度のスタートだったということで、研修医の地元志向が強まったのではないかと考えています。
―課題は。
本学の内科に関しては残念ながら「内科離れ」が顕著でした。例年に比べると3割減。内科の制度変更が影響したかもしれません。
内科の場合、内科学会と機構の当初のプログラム案では3年間で内科専門医を取得し、その後サブスペシャルティを取得するという「内科基本コース」のみでした。しかし、これまでは後期研修初年度である3年目からサブスペシャルティを選べたわけですから、従来との開きが出る。最終的には3年の間に従来どおりサブスペシャルティの研修に特化する「サブスペシャルティ重点コース」も導入されました。本学ではこの「重点コース」しか専攻医に選ばれていませんでした。
今後、内科専門医の試験も実施されますが、その内容について機構がどう考えるのか注目しています。内科専門医は「内科の総合的な知識が必要」と言うものの、腎臓内科、血液内科、神経内科といった知識も必要。サブスペシャルティ領域の知識をどのレベルまで求めるのかは未知数です。
内科専門医を取得したとしても、臨床の現場では、専門性が求められる。内科専門医を取得したけれど「細分化された専門性が必要」となると、「内科専門医を取った意味は」という疑問にもなりかねない。
また、女性の場合、初期研修医、専攻医の年代は結婚や出産などとも重なる時期。結婚や出産、留学の場合など男女にかかわらず、現行制度ではいったん離脱した場合の救済策は明確ではない。女性医師も増えていますので、対応策がないと制度自体が根底からぐらつくことになりかねません。
若い世代の医師が不安を抱くことなく、安心して専門医を目指せるよう、しっかりとした制度を作り上げていくことが医療界全体の責務だと思います。
熊本大学大学院
生命科学研究部腎臓内科学
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