地域医療連携のハブはドクターカーが担う
横浜市南西部に位置する横浜医療センターは2017年4月に横浜市内初のドクターカーの運用を開始。出動要請があれば救急科専門医が現場に駆けつけ重症度を見極めて搬送医療機関を決定する。「走るよろず外来」を目指すというこれまでにない取り組みに地域も厚い信頼を寄せる。
―ドクターカー運用開始の狙いや役割。
われわれは「出前お助けチーム」と呼んでいます。当院は救命救急センターを持ち3次救急医療を担う病院ですが、患者さんを待つだけではなく、消防隊や医療施設などの要請があればドクターカーで地域に出て救急医療を積極的に実施しようというものです。
ドクターカーには「救急車型」と「乗用車型」がありますが当院の場合は後者。最低限の医療器具と救急科専門医などのスタッフが乗っているだけです。
大きな役割は二つ。重症者の元へ救急隊員が救急車で行き対応している所に、ドクターカーで医師が行って処置をするもの。
われわれが力を入れているのがもう一つの役割で、地域の老健施設や2次救急病院が緊急の患者さんを目前にして「搬送していいものかどうか」などと迷ったり、困ったりした時に、患者さんを当院に連れて来るのではなくて「われわれが診に行きますよ」という言わば出前形式の救命救急センターのようなものです。
現在は戸塚区、泉区、栄区を対象にしています。スタートして1カ月目の出動件数は10件にも満たなかったのですが、年間100件程度になりました。
―きっかけは。
中心になっているのが古谷良輔救命救急センター長。古谷センター長は、在宅の患者さんを診る機会があったため、救急科専門医のニーズが地域にあることにいち早く気付いてくれました。
例えば、ある患者さんの症状が肺炎なのか心不全なのかわからないという相談を診療所の先生にもらう。
救急科専門医は救急の知識は幅広いので、それが重症かそうではないのかをトリアージできますし、適切な所に適切な時間で搬送するスキルがある。救急科専門医にとっては基本ですが、救急に慣れていない開業医や病院では、その判断は難しい。それをわれわれが出向いて解決することで開業医の先生も、そして患者さんも安心してくれます。
ドクターカーは、地域の病院、開業医、老健施設などのつながりをつくるきっかけとなり地域包括ケアの架け橋役も担っているかもしれません。
また、国立病院機構の職員は約6万人いますが、その中で唯一の病院救急救命士である吉田敦救急救命士が所属して専門的な対応をしているのも大きな特徴です。 古谷センター長は、当初細い路地にも入れる「自転車かバイクがいいのでは」と考えていたようですが、工藤一大前院長が車を寄贈してくださいました。
―今後の課題など。
現在、消防からの要請で出動するドクターカーに関しては、約6割は当院に搬送。残り4割近くは地域の病院に送っています。患者さんの立場に立って適切に搬送先を決めます。
また、横浜市は高齢化に伴い救急患者も増加。もし、病院や在宅から当院の救命救急センターに救急患者さんがすべて運ばれて来ることになると、センターの機能はパンクしないとも限りません。それを回避する一助にもなっています。
横浜市は、当院の取り組みに注目し、横浜市民病院でドクターカーの運用をスタート。ゆくゆくは市内全体をドクターカーネットワークによって、面で支えようという構想も生まれつつあります。
独立行政法人国立病院機構 横浜医療センター
横浜市戸塚区原宿3-60-2
TEL:045-851-2621(代表)
http://www.yokohama-mc.jp/